執筆中の本の、最終ゲラの最終章の校正チェックを終え、宅急便で編集者に返送。もっと、「終わったぁ〜」と喜びたいところだけれど、何かまだいい足らない、書き足らない気がしてすっきりしない、でも森山組のライブ前100レポート目当日に、最後のゲラチェックが終わってよかった、だってレポ書きに時間がとれる。これまで原稿書きにず〜〜〜〜〜〜っとかかっていたけれど、今日からレポ書きに時間を費やせるというのはまた運命かも。だって、この本を書くことになったきっかけのホントのホントの大元は、森山グループについてドイツに行ったことだもの。ちょっとここでちゃっかり宣伝させてもらっちゃおう、中央法規出版から、9月末には書店に並ぶ予定です、どうぞよろしく。

午後6時5分前に着くと、拍子抜けするくらい人がいない。明日はもっと人が来るはず・・・二日目を狙った人が。中ではリハーサル中、うんうん。リハが終わってでてきたグズラさん、今までのTシャツと違って、黒Tシャツに白い桜の花びらの点々と模様があった、けっこうおしゃれでかっこいい。。あら〜、いつものシャツと違うわ、と思ったら「漂白剤が落ちた痕じゃないよね」といった人がいた。

入場は6時20分くらい。開演が待ち遠しい、なんだか落ち着かない。デジカメの電池を入れ替える、今日はデジカメが古いヤツ、しまった・・・フラッシュが光らないように、電源を入れるたびにボタンを押さないといけないんだ、めんどくさい。オットのデジカメをワインレストランに忘れてきたのだが、取りに行っている暇がなくて。今日も録音はしないでメモだけでレポートを書くつもり。8時を回った頃にメンバーが入場。森山さん白のシャツ、佐藤君かわいい花柄のシャツ。森山さん、「手が動くかしら」といろいろ準備運動。「練習しておけばヨカッタ」なんて。

いきなり、Giant steps。この吹き始めがたまりません。わ〜〜〜、心底ウレシイ。ノブ君、ピンクのシャツ。うう、太腿細いなぁ。テーマから音川さんのソロに入る、だんだんヒートアップする森山さん、でもまだまだ手が思うように動いていないな。リハだけじゃ足らないと見える・・・・音の出方を確認するかのように、左手を慎重に動かしながら聞いている佐藤君。グズラさんの刻むリズムが心地よい。ずっと、ずっとこの演奏を心待ちにしてドキドキしていたのに、もっとドキドキしてきた!不整脈でも起きたのかしら、と思うくらい、胸に詰まる。あ、気がつけばグズラさんの音がとてもなつかしいと思ったのはここしばらく聞いてなかったからかも(といっても4月には聞いてるんだけど・・・)。嬉しそうな顔の佐藤君。森山さんもだ。だんだんヒートアップはしてきたものの、でもまだ本調子じゃないね、なんてことをはっきり書くと怒られそうな気もするなぁ・・。でも、この、手を伸ばせば触れそうな位置にミュージシャンがいるという、このラブリーでのライブを体験してしまうと、ここに勝るスポットはなかなかない。オットはラブリーの大ファンである。音川さんが佐藤君を見てソロを渡す。アコーディオンでジャズ?って思った人、百聞は一見に如かず、絶対聴いてみて欲しいなあ。森山さん、佐藤君を後ろから優しいまなざしで見つめながら追い立てるドラミング。あ、そのバッキングのグズラさんとノブ君のコンビネーションが絶妙。おお、佐藤君ついに拳で鍵盤を・・・アコーディオンの師匠が見ていたら怒る、とかないのでしょうか・・・森山さんが佐藤君に斬りかかり、攻め込むのに加勢するようなベース!それにピアノはまだ加勢する、ああ佐藤君がんばれ!ノブソロにうまく切り替わり、音川さんは満足そうに、佐藤君は楽しそうにノブ君のソロを見つめている。ノブ君森山さんを見ながら細い腕を広げて・・・わ〜、楽しい。ノブ君が面白いフレーズを弾いたなと思ってふと目を上げると、音川さんと佐藤君が必ず目を見合わせて笑っている。ノブ君のソロのバックで、音川さんと佐藤君がちょっとつけて拍車をかける。ああ楽しい。森山ソロに入って、佐藤君がしゃがんで後ろの客席からも森山さんが見えるようにする。さあ、いつキメのフレーズを入れるのかな?ここだ〜!ってところで全員すかさずタイミングばっちり、ノリノリのままテーマに戻る。・・・なかなかヴィジュアル的に面白いシーンがいっぱいあったのだけれど、デジカメの中にカードが入ってなかった、椅子の下からカバンを出して慌てて入れる。

くゎ〜。はぁ〜、この場所にいられたことだけで幸せ・・・ってくらい、興奮状態。「ありがとうございました。久しぶりなので息が切れます。・・・は〜、は〜。メンバー紹介します。音川英二。田中信正。望月英明。佐藤芳明。森山クインテットといいましょうか、森山カルテット+1なのか、あるいはゲスト・佐藤芳明にしましょうか、どれでも好きなように呼んでいただければ、と思うんですが、佐藤さんどれがいいですか?・・・・・そんなに悩まなくても」佐藤君「森山威男クインテットが」拍手。そりゃそうだ、このところの活動状況はゲストとはいえないな。「ああそうですか、どう呼んでも5人でやってるって人数を示すことにはかわりないですもんね、他には意味はないわけで」・・・違うと思うな・・・「そうですよね、ゲストって言ったら、お茶でも差し上げないといけないような雰囲気ですもの。このごろは本当によく一緒にやっていて、田中がいなくても佐藤さんが一緒にやってくれるっていう風なんです」そうです、この前のセラミックパークを思い出してくださいました?「このメンバーはみんな忙しくて、私が声をかけると誰かがもうスケジュールが決まっているという状態で、みんなが揃うのを待っていたらあと一年のうち何回演奏できるかどうかってことになってしまうので、たまには田中さんがいない時も佐藤さんはいる、っていう状態なんですが。たいていいなくなってしまうってことはない人も中にはいるんです。仕事のスケジュールたつまっていないというか、空けて待っていてくれるというか、たまには律儀に私に協力してくれる人も・・・」とグズラさんの方を見る、「デュエットでよければいつでも」笑い。「最初の曲は、コルトレーンの」といって間が空く、きっと思い出さないだろう、音川さんが助け船「ジャイアントステップス」「ジャイアントステップス」佐藤君大受け。「皆さんの方がよくご存知でしたね・・・このセットはあと二曲演奏します。次が板橋文夫の作りました曲でワタラセ、続いて音川英二のサウンド・リバーです。まずは、ワタラセ

どういう風に入るんだろう・・・と思ったら、ああノブ君が弾き始めた、わ〜〜〜〜〜!!!とても、きれい!一気に、目の前がぱあっと開けるようなあまりに美しいイントロ!すごく、すごく深みがあって美しい、陽光が少し陰った木漏れ日、緑の葉からしたたり落ちる水滴にきらめく光。ああ、顔も手も脱力してペンを取る手がとまってしまっている。そうっとベースとアコーディオンがつけたテーマに入る。ソプラノで吹く音川さんのテーマ。佐藤君のソロから・・・何だろう。水辺から離れて、秋の野原を一人で青空を見上げながら散歩しているような気分になってきた。ちょっと悲しい出来事もあったけれど、心に秘めて口笛を吹きながらまた歩いていける、って感じの情景。音川ソロ、シルバーのストレートなソプラノ。吹きまくる音川さんのバックで森山さんのロールが炸裂する。う〜ん、ノンブレスで吹きまくっているけれどなぜか情景は浮かんでこないなぁ・・・。あれ、おかしいなぁ。さっき電池を替えたばかりのデジカメ、もう電池切れのマーク。どうしたんだろう。ノブ君ちょっと不思議な音階から入る、川の流れからすくった冷たい水が手のひらからこぼれ落ちていく感じ・・・ノブ君音川さんの方を見上げて佐藤君と2人にリフを入れさせる。ノブ君森山さんの方をみながらソロを終える・・・どうするんだろう??おお、グズラさんのソロになった。ぎゃ、デジカメのフラッシュが光っちゃった!びっくりした〜、あせる。電池切れになって、スイッチがリセットされちゃったんだ・・・すかさずお店のお姉さんが「フラッシュなしでお願いします」と注意しに来たけれど、慌てているこっちは「ゴメンナサイ」じゃなくて「わかってますっ!」って答えてしまった。

森山さんが何か困った顔をしている。きっと次にやる曲がなんだか忘れてしまったのだろう、さっき自分で言ったばかりなのに。音川さんがテンポを出すがそれでも思い出さない、音川さんが助け船を出す。森山さん照れ笑いしながらマイクを持つ。「え〜と、今年も来月9月ですけれど、第3土曜日、17日に可児市のala、文化創造センターというところでコンサートをやります。入り口にチラシがありますのでどうぞお持ち下さい、先着20名様限定です。このメンバーに、井上淑彦、向井滋春と本多俊之を加えた、全部で8人でやろうと思ってます。真新しい曲なんかできるわけじゃないので、いつも聴いて下さっている曲をやるんですけど、一曲ごとにちゃんと譜面を書いて、ドラムのアレンジだけはなしにして、そのように立派な計画が練られています。それを一つ情報として伝えしたかったのと・・・本多俊之とか向井滋春は、私が東京にいた時によく一緒にやったんです、ピットインで月1回とか。その頃は好きな音楽の傾向も一緒だったんだけれどこの10年以上いっしょにやってないので、今はどうでしょうか?本多なんてたまにはここに来るの?」とラブリーのマスター、河合さんに向かって。「この5年くらいやってないね」「じゃあやれるかどうかね?人の心配するなって、むこうもきっと言ってますね、『あの人まだやってるの』なんて。向井滋春はたまに名古屋に来てるんですよね、あっちの、覚王山の方でたまにやってるんですよね。以前一緒にやったことがあります。彼もこの5年ほどは一緒にやっていないような気がしますね・・・(と考えている)お元気なんでしょうか」も〜、ホントに覚えてないんでしょうかね?本多さんとは今年の5月、京都ラグで呼ばれてやってるし、向井さんともこの5年で記憶にあるだけで4回はやってるんだけど・・・まぁ、そのうち一回はコンサートとも言えないような状態だったし。それでも冗談と思えないところがコワイなぁ。「さっき話していたんですけれど、このバンドで独身じゃないのは私だけなんですね・・・(客席ざわめく)皆さん諸般の事情により独身で。「音川さんも晴れて独身になって・・・」みんなおおっと驚く。「独身になったのをバネにして、ってさっき音川さんが言ってましたよね。あ、佐藤くんが言ったの。そうですか、みんないろんなことをバネにして続けられるんですね。一つのことを長く続けるのは難しいです。私も女房がいるのをバネとして。やりますよ、サウンドリバーいったい何なの?

いきなりサウンドリバー。もう脱力してしまったが、この切り替えがなんともはや。佐藤君のソロ、アコーディオンもいろいろな弾き方があるんだなあ。ノブ君は鍵盤に手を置かず、手を膝に置いたままで全身でバッキングしているようだ。森山さん佐藤君をあおり始め、ノブ君が参戦。今日は森山さんが真後ろなので、佐藤君森山さんとアイコンタクトがしにくくないかな?おお徐々に盛り上がってきたと思ったらまだまだいける、そこに音川さんがサウンドをプラスして盛り上げていってソロ終わり、音川さんがノブ君にソロを振る。ノブ君足をばたばたさせながらソロ。森山さんがしかけていってパカンパカンと大音響、佐藤君大喜びで見守っている。お、音川森山デュオになった。トリのようなキョキョキョキョキョケーというサウンド、デュオ、フリーのデュオだ!面白い掛け合い、どうやってテーマに持って行くのかと思ったら音川さんサックスを一振りしてドラムソロに持っていく。スネアの響き線をはずして、タムのようにして叩きまくる、テーマになって膝でさりげなく戻す、うまい。

PM9:00.「佐藤芳明!音川英二!田中信正!望月英明!しばらく休憩します」

あまりの煙たさに外へ避難。2部はPM9:30にスタート。

おお、N.O.W.から、森山さんスピーディーなリズムを叩きだす、テーマのリズムをスネアに書いてカンニングしていたことなんて全くウソのようだ。佐藤君ソロ、うまく盛り上げていく。表情が険しくなって、だんだんと恍惚っぽくなっていく、ソロが終わって鍵盤をぬぐう佐藤君。骨太の音で吹きまくる音川さん、森山さんやっと本調子がでてきたかな。ロールの音も冴えてきた。音川さんのフレーズにグズラさんがうまく共鳴して、佐藤君もそれにつける。ああ、来た来た来た、いいね!おお、怒濤のサウンド!いきなり田中森山デュオになった、固唾を呑んで見守る。ノブ君が仕掛ける場面もあり、森山さんが押し戻す場面もあり!あ〜、楽しいデュオだ!森山さんおちゃらけてドラムを叩いていないのに叩いているふり!いつブレイク?タイミングを計ってお互い牽制しあい、ビシ!とうまく決まった〜、拍手!もう唖然としてしまうほどの緊張感のデュオが終わり、ドラムソロに突入、ノブ君鍵盤拭きをねじったり引っ張ったりしてデュオの緊張感をほぐす。ドラムソロが終わって全員でテーマになだれ込み、ending。ほお〜、終わった瞬間大拍手とため息が交錯する。

「ありがとうございました!は〜、は〜、月へ行って帰ってきたみたいです」息を荒くして、は〜は〜と呼吸をしながらMC。「息苦しくて・・・大したもんですね、宇宙へ行って帰ってくるっていうんですから、不思議な気がしますね。野口さんが一人で行ったわけじゃなくて、だんだんといろんな知識を積み上げてやっとできるようになったたんでしょうけれど。見ていて私たちがやっていることって何なんでしょうか、知識を積み上げていくってわけじゃなくて・・・そう難しいことを考えなくてもいいですね、こういうことを何年かたってから次の世代の人が引き継いで言ってくれるわけじゃない、私たちの仕事っていうのはただ繰り返しやっているような気がするんですけれど」いや、どれだけたっても森山さんの後継者って人はでてこないような気がしますが。「・・・でも、テレビを見ていて、私も野口さんに似ているかも知れないと思ったんですよ」何を言い出すのかと思ったら、「顔、が似ているわけじゃなくて、頭の良さも似ていないんですけれど、帰ってきた時のインタビューを聞いたら、(地球に帰ってきて)一番心配するのは階段を昇り降りすることだって、ああ私といっしょだ」笑い。「あとは、これなら俺にもできるな、っていうのは、宇宙から帰ってきて、まずしたかったのは温泉へ行ってお酒を飲みたいって。なんだ、あそこまでいってやりたいことはそういうことか、そんな宇宙まで遠回りすることなくてできちゃうんじゃないですかね、しかも日本で!」爆笑。「そういう馬鹿なことを考えて自分をなぐさめております」笑って手が止まってしまう。「今度の曲はそういうことを考えて作ったわけではないと思うんですが、井上淑彦の作りました曲で、Gratitude です」

おかしくて手が止まっているうちにノブ君の紡ぎ出すイントロ。マレットで静かにシンバルが鳴る、グズラさんがつけてGratitudeが始まる。う〜ん、本当にほんとうに名曲だね。ノブソロ。今、この時ここにいられることを感謝しよう。この音をみんなと共有できることに感謝しよう。佐藤君ソロ、ああ、また深い味わい。少しうれしくなってくる。なぜか涙が出てきた・・・なぜ?テーマに。ブラシで叩きまくる森山さん、静かにエンディング。

pm9:50。「ありがとうございました。Gratitudeでした。佐藤さんはこの店は初めてでしたか?」佐藤くんずっこけつつも2の数字を指で出す。「あ、二回目。何となくそういう気がしてました」「昨年森山さんと一緒に出させていただきました」そう、昨年に音川バンドで。でも佐藤君、がっかりすることないよ。「このところ物忘れが激しくて・・・そういうことすぐわすれてしまうんです。道理で難しい曲もさりげなく、手慣れてやってくださっていると思った。私も佐藤さんのことを少しは知らないといけないなと思って、ガレージシャンソンショーっていうバンドを、この前聴きにいったんです。ご存知の方いらっしゃいますか、ご存知の方は手を挙げて」けっこう手が上がる。「ほら〜。佐藤さん気を落とすことないよ」大爆笑。「気を落としてないか、面白かったですよ〜。これ、チラシですか?」とK枝先生が手に持っていたチラシを見付けて森山さんが手に取る。「私の(チラシ)も持って来なきゃダメじゃない」とK枝先生に向かって。「たった男二人でね、それらしい衣装を着て、で、メイクをして」後ろの方から驚きの声があがる。「これもそうなってるでしょ、そうヴィジュアル系なんですよね。・・・・これを見て田中さん、うらやましく思ってるでしょ」といきなりノブ君に振る、爆笑。チラシを見て「いやあ、すごくステキでしたよ。これなら売れるわけだと思って。売れっ子ですもんね」と佐藤君を見て、佐藤君「とんでもない」と首を振る。「あとはヴォーカルをやればもっと売れますよ。二人ですから、山田さんて方がヴォーカルと作詞をして、作曲は佐藤さんが?エンターテイメント、というか、上手ですよね、喋りというよりも、シャンソンですから歌うんですよね、うたと喋りが一緒になってるんですよね。ああいうことをやってみたいと思ったんですけど、うちではできないですよね」大笑い。「私もやってみようかしら。田中さん、目の前にマイクがあったら何を歌いながらピアノを弾きますか?昔そういうギタリストがいてね、ギターを弾きながらお腹の所にマイクをおいて、ギターを弾きながら歌うっていう人がいました、大したことを言っているわけじゃなくて、『ああ間違えちゃった』なんて言い訳しながら、一緒にやっている方はいい迷惑ですよ。そんなことを思い出してしまいましたが大したことはありません。ただ羨ましいのは舞台でメイクしても非常に似合ってましたし、立っていても絵になるんですよ。私は座る職業でよかったなと。田中さんなんて時々立ちたいでしょ?」ノブ君「いや」と首を振る。「そうですか?そういえば田中さんも和服を着てピアノを弾いていたんですよね、最近もやっているんですか?」「いえ、もうあきちゃって・・」「・・こんどはドレスですか?」ばかうけ。「いろんなものに挑戦してみて。いいですよ、なんでもアピールしてね、そういうことが芸術だとかなんとかって言い訳のつくお仕事をなさっているから。ああ、佐藤さんのことを話していたんでした。佐藤さんのことを皆さんに紹介しようと思って。佐藤さん少し自己紹介していただけますか?」拍手、歓声。「佐藤さんの声を聞いたことないんですよ、佐藤さんがおしゃべりになるのを聞いたことがないので、いっぺんどういう声をしていらっしゃるのか聞いてみたいと思って」と佐藤君にマイクを渡す。佐藤くん「電話でもうさんざんしゃべってるのに。え〜、アコーディオンの佐藤と申します。あの、一方ではそういうこと(ガレシャン)をやりつつ、一方ではこういうジャズの現場に呼んでいただいて非常に光栄に思っているわけでございまして。そうですね、アコーディオンで人と違うことをやりたいとずっと思っていて、なかなか理解されなくてですね、昔良くジャムセッションとかに行ってたんですよね、ジャズの友達とかいなかったんで。でもアコーディオン持っていくと『君アコーディオンで何やるの??じゃあ、枯葉でもひいてみて』って言われるので、『じゃ、バース(イントロ)から弾きます、とかやってみたりしたのですが、なかなか理解されずに、どうしたらいいかな〜と思って、逆手に取ってやろうと、これがアコーディオンだろう、これがシャンソンだろうと、そのころ始めたのが『ガレージシャンソンショー』なんです。まあ、そういう活動もあって、僕が素で演奏できる場所があるといいなと思っているうちに音川さんにであって、そんなこんなしているうちに森山さんのグループに参加させていただいて今日にいたっているわけでございます。こうして今日は名古屋でラブリーでも2回目の演奏。明日になれば三回目の演奏、ができるように成長したわけでございます。それもこれも皆様のおかげでございます』と頭を下げる。うまいもんだ、拍手。「本当にありがとうございます」笑い、拍手、拍手。「・・・・いやあの、ジャズのグループってのは会社組織と違って入社試験があるわけじゃなく、契約書があるわけじゃなくて今日やってだめなら明日はもうあとはないってことも」と森山さん。何を言い出すんだろうとみんなびっくり、「3回目の演奏はなさそうです」と佐藤君。「いや」と森山さんがいうので否定するのかと思ったら「そういうことはよくあるんですよ、山下トリオでやっていたころ、そのころは普通ドラムがあまり目立つことはなかったのに、私が叩くとそのころは音響が悪かったのでピアノがいくらがんばっても、ドラムがどわーっと叩くとかき消されてしまう、山下さんが『バンドの名前を森山バンドにしようか』っていってましたが年功序列で山下バンドって、それは冗談ですが、そのような契約があってやってるわけではないんですけれど、大切なのは出会って真剣にやり合うことだと思っています。どういうわけかこう、真剣にやった後は安心して、休んでるんですかねこういう時間っていうのは、無駄口叩いて」・・・笑い、「できればこのまま帰っちゃいたい」みんなに大受け。脱力してしまってカメラを構える力がないわ。手を叩いて大笑いしているノブ君に向かって「田中さんそんなに面白いの?」ノブ君うろたえる。「そうですか、笑ってもらえてウレシイです。あしたもっと面白いことを話します、では望月さんの紹介をしましょうか?望月さんは今回はやる気十分でしたね、昨日から来てるんですもの。あの、昨日電話がかかってきて。『もう前の日から来ちゃいました』って。別に前の日から来たってすることもなんか何もない、研究熱心だから場所を見に来られたんでしょ?」頷く望月さん、メンバー爆笑。「下見をね。やりますよ」

静寂。おかしさをこらえてひくひくしているのに、舞台では何事もなかったかのようにスタタスタタとサンライズが始まる。この落差がまた何とも言えない味。音川ソロに引き込まれていく、森山さんの左腕が大きく挙がって、シンバルを叩くショットが美しい軌跡を描く。バスドラがダンダンダッダッダッダとリズムを弾き出す。ああ、リムショット、ノブ君との掛け合い、わくわく。佐藤君が盛り上げる。ペンが止まりそうになるけれど・・・大きく一丸となってサックスソロ終了、ノブソロ、一旦音量を下げて静かに始まる。佐藤君が手元を真剣に覗き込んでいる。グズラさんの高音がギュンギュンと響く。森山さんが楽しそうだ、わ〜い、すごいぞ〜、ノブ君が鍵盤を両手で連打、森山さんがそこに突っ込む。佐藤君ソロ、冷静な顔で凄いフレーズを弾いている、さてこれからの盛り上がりが楽しみ、まあなんという展開でしょう。森山さんと音川さんが目を合わせてリフを入れる、さあ佐藤君の蹴りが出たノブ君も音川さんも楽しそう。全身でアコーディオンを抱え込んで、引き伸ばして、全力で少しでも大きい音、フレーズを出そうとしている、そこに森山さんが後ろからあおるあおる!ぱっと振り向いてソロ終わりのフレーズ。客席から歓声とため息。ドラムソロ、バスドラが響きわたる、腕を振り上げ渾身のスネアショット、全員でソロ終わりのタイミングを逃さないように身構えてぱっとテーマに入る、
「音川英二!田中信正!望月英明!佐藤芳明!ありがとうございました。明日必ずお目にかかりますように。私も必ずまいります」と言っているうちに森山さんを残して全員退場してしまった。ん?

「歌でも歌えばいいんですけれど、風邪を引いてしまってのどの調子がイマイチなんです。今日は、先日さるパーティーでお会いしました、女性のヴォーカルなんですけれど、西岡ともみさんとおっしゃる」「今岡」と客席から声がかかる。「ああ失礼しました、今岡ともみさん。ヴォーカルってのはね、とても難しいんですよ、ちょっと来ているから何か一曲歌いましょうかっていってもキーとかアレンジしている譜面がないとなかなか難しいらしいんです。やったことないからわかんないんですが、演歌なんかだったらどこでも歌えるんですけれどジャズヴォーカルってのはなかなか難しいんです。それで、二人ならやれるだろうって、デュエットでやります」えっ?ゲスト出演?それもドラムとデュオってどういうこと?小柄な女性が後ろのテーブルから席を立って前に出てくる。「マイクこれ使っていいですか?今岡ともみさんです。今岡さんはラブリーでもなさったことはあるんですか?」「ないです」「ない!あ、じゃあデビューですね、よろしくお願いします。もしかすると次回は森山6tetだったりして。難しいですよウチのグループでヴォーカルやるのは。ラーラーラー(とサンライズのフレーズを素っ頓狂な高音で歌い出す)こればっかりですからね、体力勝負です。マイク準備できましたか」「OKです」「じゃあテストしましょうか、おはようございます」「おはようございます、今岡ともみです初めまして。岡崎からまいりました。ここにおみえになる方は皆様きっとジャズ通の方ばかりなのですごく緊張して手が震えて、声が出ないかもしれないんですけれど、皆さんのことカボチャだと思って森山さんの目だけを見て歌わせて頂こうと思っています」「それではやりましょう。エニーキーオーケーですからね、私は」爆笑。

本当に森山さんの方を見つめて歌い出したら、これが体格と自信なげな喋りからは想像もつかないような迫力の声と歌い方!ブラシで叩きまくる森山さんを見つめて見事に歌いきった。大したもんだ。だって森山さんとデュオ、って想像できます?ああ、曲名なんだったっけ、忘れてしまった。


「今岡ともちゃんでした、すばらしい」拍手。「やりましょうか」でメンバーが戻ってくる。「何か、今の言い方だと次が情けないみたいだね。『やろうかぁ〜!』って言わないと。ヒヒ。やりますとも」メンバーの用意が整ったら、音川さんに向かって「ヴォーカルやる?」爆笑。「ちょっとね、フロントにいる人が楽器を置いて1コーラスでも歌うとかっこいいんだけどね。音川さん今度やって下さいよ、吹きながら歌うっての」爆笑。「モンゴルの人やるじゃないの、二つ音を出すって」「ああ、ホーミー」「坂田明が『僕もできるようになった』って言ってたよ」「僕も練習してます」と音川さん。「練習するとできるようになるんですか?」「お風呂で」「単なる残響じゃないんですかね?・・・・そんな曲じゃないんですよね、この曲は。私が山下トリオでむちゃくちゃ叩いているときに、こういう曲をいつかやれたらいいのにな、と憧れていた曲がハッシャバイでした」

サックスが吹き始める。佐藤君ソロ。ジャズだわー。あ〜、今までこの5年間、こんな風にヴォーカルの飛び入りしたことはあったっけ、2年前に丸山繁雄先生が一曲ノルウェーの森を歌ったことがあったわ。その他は・・・今日のライブが100回目のレポート、それに書いた内にはないし、書いてないレポートを含めたら105回くらい、24年間で何回聞いたんだろうか・・・なんて考えているうちに音川ソロからノブソロ、ベースソロ、テーマと終わってしまっていた。

森山さんが手をさしのべて、ノブ君の弾き出すGoodbyeのイントロ。夕暮れの空にきらめき始める星のように、ああ、きれいだ・・・テーマが始まる、サビからの8小節は佐藤君、最後の8小節は音川さんがテナーで。美しい・・・佐藤君のソロ。雑念を振り切って浸ろうとしているのに、後ろのカウンターの方で何かしゃべっている人がいる、うるさいなぁ、とつい後ろを向いて「シ〜ッ」とジェスチャーをしてしまった。もう、浸れないじゃないの・・・。

「田中信正!音川英二!佐藤芳明!望月英明!ありがとうございました!」

でおしまい。さて、100回目のレポート、明日までに仕上げられるだろうか。打ち上げではなぜか大ヨガ大会が始まっていた・・・