JAZZ LIVE BOOTLEG at DEPOT
TAKEO MORIYAMA TRIO
SPECIAL SECRET GIG

featuring YOUSUKE INOUE
NOBUMASA TANAKA

ジャズは勝ち負けである――森山威男
最高最強のドラマー、デ・ポに来演!

中目黒の駅で森山さん、田中さんと待ち合わせ。駅からどんどん歩いて、「本当にこんな処にお店があるのかしらん」と思えるような、高架下に小さなドアがあって、あけると広い広い空間。びっくりしたあ。中ではジャズの写真展をやっているし、グランドピアノがちゃんとある。階段と、部分的に二階建てみたいになってるスペースがあり、そこからでも演奏が見られそう。いつもは和食のお店みたいで、ライブをやることはあんまりなさそう。ステージの位置が決まってなくて、さてどこにセッティングしようかとみんなで頭を悩ませる。帯に短したすきに長し、という感じであっちにしようかこっちにしようか。ピアノをみんなで移動して、じゃあこちらにドラムを・・・と決めるが、いやそれじゃ森山さんからみてピアノが右手に来るから演りにくい、とか、ここに置くと狭すぎるとか、ここに置くと観客から死角になって見えにくい、なんて頭の中でシミュレーションできればいいのに、実際ピアノを動かしてからダメが出る。そのたびにノブ君、井上さん、森山さんを含めてうんしょうんしょとピアノを動かす。セッティングが決まるまで約30分。「どうして頭の中でイメージできないんだろう」と森山さんぼやく。

やっと位置が決まって、ドラムを組み立てる。今日はタムが1つのセッティング。なぜかフロアタムの脚のネジがひとつ足らない。どうも前回のRAGに落としてきたらしい。森山さんがドラムの前に座って、ドン!とバスドラムを一発踏むだけで、「きゃ〜、やっぱり森山さんスゴイ〜」と目がハートになる私。このトリオは、9月のalaでの1ステージを構成するから、しっかり演奏しておかないとね。何の曲をやるかといろいろ相談しながら作っていく。あまりリハーサルから同席することはないので、おもしろかった。「ここでブレイクがあった方が」なんてちょっとだけ口出ししたりして。東横線が走るたびに、ゴォーっという音と地響き。森山さんのバスドラムと重なるとこれがまたすごいのなんの。リハを従業員の若いお兄ちゃんたちが見ているが、びっくりした表情。デジカメや携帯のカメラで写真を撮り出す。「どうですか?」と訊いてみると、「ヤバイっすねえ〜、スゴイっすねぇ〜」と気圧されている。

HPで募集した観客の一覧表を見ながら、並べた椅子に名前を貼っていく。HPで応募して下さった方は、最前列と二列め、三列めまでと良い席がもらえた。この人はピアノに近い方がいいかな、とかこの人はドラムに近い方がいいかな、この2人は知り合いだから並べようか、なんて考えながら。二列目、三列目になった人には申し訳なかったけれど、それでもすごく近い席だったのでご容赦を。

5時半開場。どんどん席が埋まっていく。6時になってもまだ観客が揃わず、少し開演を遅らせた。最初は井上さんのベースソロから。何ていう曲なんだろう。大きくベースのネックを動かしてスウィングしている。チョッパー風に弦を弾いて、アクティブだなぁ〜。

拍手と共にノブ君登場。ベージュの刺繍入りシャツ。ピアノの音もよく響いて、列車の音もあまり気にならない。効果音みたい?軽快な感じのデュオでA day in the life。プライベートにやってもらってるみたい、なんて贅沢。ベースソロの途中で森山さん登場。拍手。ベースソロの終わりに森山さん入る。ブラシで叩き始める。至近距離でドラムが叩くとさすがにピアノの音が聞こえにくいけれど、それでもPAはベースアンプだけとは思えないほどよく響いている。ぱっとスティックに持ち替える。うひゃ、すごいトリオだ。息が止まりそう。おお、終わるかと思ったエンディング、ノブ君まだ弾いて引き延ばしている、しつこさも身につけた?

「ありがとうございます、ピアノ田中信正。ベース井上陽介」拍手。「私は人見知りする方なので、初めて今日やるんですけれど、私が一番緊張しています。最初、だから出遅れてしまって、遅れてドラムの席に座りましたが、まあ本当はそうやれっていわれたからやったんで、どういう顔をして入っていこうかと困ってしまいました。最初の曲はビートルズの曲で、こういう曲もやったことがないのでどうにも困ったなと思ったんですけれど、終わるのを楽しみにやりました。次の曲も実は初めてなので困ったなと思ったんですけれど、思い返してみれば私は音楽大学へ行ったんですけれど、柄に似合わず音楽大学だとドラムを叩くだけだと入れないので、ピアノも先生について学んだんですけれど、どんな楽器でもそうなんですが、ちょっとできるようになると何か曲をやってみたくなるんですよね。最初やったのが月光だったんです。あれは最初タンタンタンと(とメロディーを口ずさむ)易しそうで、最初8小節だけで挫折しましたけれど、今日はそれを田中さんにやってもらいます。月光です」上をゴーッと東横線が通る。

静かに月光のテーマが始まる。マレットでつける森山さん。月の砂漠のテーマも入り、曲が何で始まったのか一瞬判らなくなる。あれ〜?ナイロンワイヤーのブラシだ、初めて見る。静かなインプロヴィゼーション。

おや、サンライズだ。ここでやるの?ピアノでサンライズのテーマはなかなか苦しいぞ〜。ピアノソロ。ドラムが爆音をたて、井上さんがスピーディーにつける。森山さん、ノブ君を鼓舞する雄叫び。井上さんは今日初めてやる曲なんだけど、さすがプロだね。テーマの8小節をソロの終わりにつけ、ドラムソロへ。ノブ君ほっとした表情を見せる。かっ、怪物だこの人。人間国宝と言って本気にする人がいるくらい、この爆音は、地響きは、ストロークは、無比無類のドラミング!こんな近くで森山さんの演奏を聴くのは初めてだが、圧倒されてしまう。雄叫びと共にドラムソロが終了、テーマに。ノブ君一瞬テーマを弾きそびれるが、そのまま続行。終わって、メンバー紹介、「しばらく休憩します〜」

休憩の間に、こんど出る杉本さんと音川さんのリーダーアルバムのジャケット写真を見せてもらう。なんかカッコイイなぁ。両方とも森山さんが叩いています。8月のラブリーでは先行発売なのでみなさんお楽しみに。

「それでは第二回目を始めたいと思います。皆さんのお手許に配っていただきましたけど、9/19,20の金、土と、今私の住んでいる岐阜県の可児市と言うところでコンサートがありまして、ジョージ・ガゾーンと、エイブラハム・バートンとそれから井上さんとニューヨークから3人来ていただいて、2日間演奏しようという、しかも1000人入る大ホールで、和泉なんとかさんが出るのでないのキャンセルするのって話題になった所なんですけれど。今ジャズを1000人のホールで演奏して満員になるかどうかって言う時代になぜ2日間やるのかっていう(笑い)、ただ話題だけを提供しようっていうのが目的じゃないかと、幕を開けたら10人ぐらいだったらどうしようってうなされているような毎日なんですけれど。是非、遠いんですけれどいらしてください。大歓迎いたします。私も行きますンで(爆笑)。で、そのコンサートで2日目の1stにこのトリオで演奏しようと思っています。今日を手始めとして何回か演奏して練り上げたものを皆さんにお見せしようと思っておりますので、皆さん今日はリハーサルにようこそお越しいただきました。ありがとうございました(笑)。葡萄酒と同じでできた最初がうまい。その後は熟成したものがうまい。ということで、途中を聴いていただくより最初を聴いていただいて良かったんじゃないかと思っています。最初のステージはベースソロから始めたんですけれど、上の音(高架の)と下の音で、ドラムがいなくても迫力がありましたね。こんどもこのグループとしては初めてやる曲なんです。それは・・・と言って曲名が出てこないのでノブ君と井上さんの顔を見ながら言葉が止まる・・・あ、テリーのテーマって、チャップリンの映画の主題歌でしょうか。で、それから同じチャップリンの映画の主題歌でスマイル。と続けてやろうと思っています。それからまた別の曲をやって、その後にまた別の曲をやって(笑)、3曲ぐらい固めてやろうと思っています。あの、譜面が頭の中でぐるぐる回ってまして、喋っている間に忘れそうでしかたないんですけれど、でも大丈夫です。ねぇ田中さん。やりましょう。ではお聴き下さい」拍手。

ベースソロから入るテーマ。ライムライトのテーマだったかな?森山さんがいきなりブラシで大音響を立てはじめ、井上さんが「もう困った奴だな〜」って感じのちょっとしかめ面。ブラシを置いてスティックに素早く持ち替え、Smileのテーマに。この曲は昔よく森山グループでやっていたのでなつかしい。ピアノソロ、ノブ君の連打。森山ソロを見ている井上さんもノブ君も楽しそう。あまりにもドラムの近くに座っているため、シズルの音で耳がじ〜んとしてきた。こんな至近距離で見られるライブなんて、初めて!

次の曲はこの道はいつかきた道・・に始まる、静かな美しいピアノソロ。あ〜、タバコを吸っている人がいる・・・演奏中はやめて欲しいなあ・・・休憩中なら逃げられるけれど、ステージの最中は逃げようがないもの。だんだん頭痛がしてきた・・・・森山さんも舌癌の放射線治療をしてから、喉が弱いのでタバコの煙は苦手なんです。みなさんどうぞよろしく。ジャズにタバコは付き物、みたいに言う人がいるけれど、ホールではだれも演奏中に吸わないでしょ?と、横道にそれるけど、本当にたばこの煙が流れてくると気になって演奏に集中できなくなってしまうのでした。曲はいつの間にかダニーボーイに移行している。最後のララララ〜と音が高くなるところ、ちょうどそこへ電車が来て盛り上がる。お、デュオだ、決闘シーンが見られるな。バシバシ叩くワイヤーがぬけてドロシーさんを直撃!うへ〜。

ジャズドラマーといっても名ばかりで、ほとんどジャズの曲を知らないでジャズマンになってしまいました。生涯10曲ぐらいしかやったことがなくて、新しい曲を増やそうと苦心惨憺しておりますが、どうしても頭の中にジャズの曲が浮かんでこなくて、ダニーボーイだとか、月がとっても青いからじゃなくて月光とか、そういう曲しか出てこないんです。あの、たいていは思い出と結びついているんですね。歌は世に連れ、なんていいますけれど本来わたしは歌が好きなので、ドラマーにならなかったら歌手になりたいと思ったんですけれど、ある人に言わせれば「ヴィジュアル系じゃないからむりだ」なんて言われたんですけれど。そんなわけでドラムを叩いていますけれど。ダニーボーイは悲しい思い出があったんです。芸大の3年生の頃、3年まではとんでもない学校へ入っちゃったと思いながらも我慢してクラシックの勉強をしていて、行きがかり上N響にでも入れれば良いと思っていたんですけれど、N響の人に訊いたら「お前は絶対とらない」なんて言われましたし、大学へ行ってもみんなが知ってるようなオーケストラの曲を全然知らないで、演歌ばっかり聴いてたものですから、本当に将来の先行きが何の希望もなくて、そんな風ですから先生たちにも嫌われまして、打楽器の先生からも本当にいじめられました。お前は間違った入学したんだなんて言われて、そんなら辞めてやろうじゃないかって退学届けを出しに行った帰り道に武蔵野のたんぼ道を歩いているときにこのダニーボーイが聞こえてきましてね。悲しい物語だったんです。その大学の先生が、私の大学5年生の時にお風呂の中で亡くなってたんです。一人で湯河原に行ってたんです。自殺じゃないかって言われたんですけれどね。行きがかり上これも私が弔辞を読む係りになってしまって、いじめられた日々が妙になつかしく思い出されて、退学届けを出しに行ったときはぶん殴ってやろうと思っていたのに、泣けて泣けて、これもなつかしい思い出でした(亡くなる前日の夜に突然、今までいじめて悪かったと森山さんの自宅まで謝りにいらしたとのこと)。そんなわけで、私がジャズ以外の曲をやるときはそういう思い出のある曲になってしまうんですけれど、数少ないジャズの中から一曲、Blue Bossaです。

Blue Bossa。森山さんのアフロリズムは久しぶりでうれしい。生音でここまでできるんだねぇ。お、4ビートに変わった、かっこいいなぁ〜。ノブ君のソロ多彩。ドラムソロへ。バスドラペダルが速すぎて目に見えない。ああ、なんという贅沢なシチュエーション。ドラムソロが終わって、テーマに。

「ありがとうございました。井上陽介、田中信正、・・・ありがとうございました」拍手が続く。森山さんがHush-a-byeと言ったが、ノブ君に聞こえなかったみたい。Hush-a-bye?と聞き返したときにはもう森山さんは別の方を向いていて、井上さんがかわってうなずく。

Hush-a-byeが始まった。あまりにも森山さんの近くに座っているため、写真がとりにくい。全体の雰囲気が判る写真を撮るため、少し移動をして壁際に立つ。隣の男性が嬉しそうに首を振りながら聴いている。森山ファンにはおなじみの曲でありますね。ノブ君がスタタタタタタと入れるフレーズに森山さんが反応をしてリズムを返す。ベースソロ、森山さんが後ろでウォーウォーウォウォーウォーと吠える。大きくベースを揺らしてスウィングする井上さん、あとでお伺いしたら、ご自分ではすごくおとなしく弾いているつもりだったのにあんなに大きく揺れているとは知らなかった、とおっしゃってました。

「東京に来るときに、高校2年生の娘が「お前さん、また遊びに行くのかい」なんて落語家の嫁のようなことを言ってたんですが、お父さんいまだに仕事してないと思ってるんです、こんなに汗かいて一生懸命やっているのに、一度見せてやろうかと思ってるんです。滅多に東京に出てくることもなくなってるんですが、田舎ではしっかりとドラムを練習しております。また東京へ出てくることもあると思うので、懲りずに聴いてやってください」拍手。隣の男性が「Good bye, Good bye」と期待の言葉をつぶやいている。大丈夫ですよ、ちゃんとやりますから。でも終演予定時間はとっくに過ぎている、大丈夫かなと少々心配。なにしろ終わってから速攻でドラムを片づけ、通常営業に戻るということなので。

ノブ君が弾くソロのイントロの真上を東横線が通る。すごく高い音でテーマが始まる。あ、そうだサビの所でいつもサックスが入るのだけれど今日は全部やらなきゃいけないんだよね、一人で。あ〜、終わっちゃうのだ・・・予定より長いライブでした。さー、最後の所はやっぱり森山さん大暴れ。終わって拍手が鳴りやまない。うん、いつものグループも良いですけれど、こういうのもまた新鮮ですね。

初めて森山さんを聴く人が何人かいたらしいけれど、Depotのマスターによればみんなとっても感激して驚いていたとのこと。ジャズのイメージが変わった・・・と。みんな、秋のに来てね!