井上淑彦カルテットを聴き終わって、小ホールから大ホールに辿り着くと、あ、ラッキー。イタリアのグループが終わって入れ替えでがらがら。急いで最前列を確保。と、ステージ上を見るとまだドラムがセッティングできていない。昨晩新宿ピットインから横浜までドラムを運んでくださった方がステージで奮闘中。お手伝いさせてくださいとお願いする。スタッフカードをいただいて(ラッキー)ステージに上がる。最近バラシはやっているけれど組むのは九州以来、ごそごそやっているうちに森山さん登場。セッティング後、「スネアくださーい」「トップシンバルくださーい」「はいピアノお願いしまーす」と音合わせ。持ち時間は60分だから休憩なしの一本勝負だろうなあ。

「今日は横浜スタジアムでヤクルトとのデーゲームがあるから、中華街はすごい人になるよ、今のうちに予約をとっておかないとどこも入れないよ」と忠告を受け、打ち上げ会場の確保に電話に飛びつく。Norikoさんは田中さんのスケジュールを書いたチラシを会場の入り口で配っている。すばらしい。田中さんのお母様にご挨拶した。あっという間に開演の時間になった。

一番前だと音響は良くないのは判っているのだけど、まあ宜しかろう。周りはふなさん、同居人さん、Kurodaさん、Maroさん、みわちゃん、ちょっと後ろにミッチーさんと奥様と、以前「マルジャ」でやった森山ホームページのオフ会がそのまま移動してきたような状態。その他にも森山ライブでいつもご一緒するHojoさんやHanaoka君、maroさんのむこうはnorikoさん、ちょっと後ろは宮崎のライフタイムのマスターや九州ツアーでお世話になった税田さん、知った顔がいっぱい。後ろの方は空席が目立つ。

Marching of seventh。このテーマ、ドラムは連打しているのにサックスの音が入るところ、シンバルを変えてビシーッ、バシーッと決まるところがすごくかっこいい。ピアノソロ。鍵盤を叩きまくる田中さんの全身から白っぽい煙がかげろうのように、霊気が立ち上っているように見える。汗が蒸発して蒸気になっているのか?ライティングか?目の錯覚か?思わず目をこすってしまう。汗が立ち上るのなら森山さんからも出ているはずだしね。音川ソロ、早いフレーズが小気味よく決まる。森山ソロ、叩きまくりでかなり長め。ピアノが入ってドラムソロが終わるが、拍手が小さい。まだみんな遠慮しているな?テーマの終わりもハイハットをちょっと開いているのを、叩くと同時に踏んでガシッと決まる。

拍手。Sun, be motionlessの最初のロールから、ガーンとはいるところもベースの音がしっかり効いている。このバンドの要はやはりグズラさんだな。テーマの後半、バックで暴れまくる森山さん。あー、素敵すてき!音川さんのカデンツァから入るソロ、低音部でのフレージングがしっかりしていて気持ちよい。サックスの音が会場の中、自由に伸びて響く。森山さんはウォーと雄叫びをあげつつ、音川さんのソロのバッキング。田中さんと目と目を見交わし、ビシバシリズムが決まる。「めっちゃ」かっこいいー。写真はステージの端と端でにらみ合う二人。しかし何が難しいって、静止状態の田中さんを撮ることなのよね。

田中さんのソロのバックで叩きまくる、楽しそう・嬉しそうな顔の森山さんを見ていたらなんだか涙が出てきてしまった。嬉しいし、感激だよ!(・・今までもさんざん書いてきたが、このレポートを最初に読まれる方もいらっしゃいますよね。今まで20年追っかけをしてきましたが、いろいろと・・・一言ではとっても言えない、いえ書けない、紆余曲折がありまして・・・でも、この、今の「森山組」ほど森山さんが楽しそうに、前向きにドラムを叩いていたことは私が見てきたうちにはないと思えるから。もしかしたらあのままドラムを叩かない、伝説のドラマーとして、今も「どこにいて何をしているんだろうねえ」と誰かが思いだしては問わず語りに言われていたかもしれない・森山さんが、こんなにも生き生きと笑顔で(ある程度は苦しそうにだけど)、ドラムを叩いて、グズラさんと一緒に、若手ミュージシャンと爆発してくれることが嬉しい。ああ、こうやって書いているだけでまた嬉しくて涙が出てきた。)

大歓声。大拍手。「ありがとうございます。テナーサックス、音川英二。ベース、望月英明。ピアノ、田中信正。」それぞれ大拍手である。「ありがとうございます。先週、私の田舎の岐阜県可児市というところで、地元主催のコンサートを開いて、森山威男が大受けに受けました。今日は田中信正の地元横浜でコンサートで、やはり森山威男が大受けに受けております。」爆笑。だれだって田中信正が受けてと言うと思うよねえ。大拍手。・・・「えー。」というだけでここで笑いが会場から。叩いているときは元気がいいんですけれど、終わったとたんに昔聴いた漫才師のおじさんみたいに、「もう帰ろうよ・・」という淋しい雰囲気になってしまいます。多分生い立ちのせいだと思います。笑い。今日、はからずも一緒に出させていただきますけれども、この後に坂田明さんとか、本田竹広さんとか、同級生でございまして、私が大学生の時彼らも大学生で、私が高校生の時は彼らも高校生で(笑い)。大学の3年の頃彼らが前途洋々で、坂田明は水産学部のホープとしてミジンコの大家として****(この辺爆笑にかき消されて聞こえません)本田竹広は日本を代表するピアニストが約束されていたと、そういう時期だったんです。私は芸大退学が約束されているという、悲しい時代がありました。彼らのことを指をくわえて眺めていたんです。彼らに「一曲いっしょに叩かせてください」と言いに行くと、「誰だおまえは。下手くそなヤツとは一緒にやりたくないんだ」と言われて、「すいませんでした」と言って帰ってきましたが、いつか一緒のステージに上がってやるぞと、そう思っていましたが今日実現しました。笑いの後、大拍手。勝負ですので、必ず勝とうと思います。」録音を聴いていても拍手で耳が痛い!!「大学に退学届けを出した帰り道、泣きながら歌った唄、ダニーボーイです。」

静かにダニーボーイが始まる。今日のピアノ・ドラムデュオはおとなしめに入る。獲物をねらって抜き足差し足でそーっと近づいていく、サバンナの・・・ライオンよりしなやかな・・・ピューマを思わせるような・・・(あえて猫背と言わない)。望月さんがベースを置いて舞台の上手に消える。音川さんも姿を消した。デュオバトル、ブレイクも決まる。やはり立ち上る霊気?よく見るとピアノの中からも立ち上っているように見えるが?後で、隣に座っていたみわちゃんやmaroさんに聞いたらやはり霊気?が見えていたらしい。みわちゃんは汗が蒸気になっているのだと思ったそうな。しかし、ピアノの中からも出ていたぞ。で、あれは田中さんが今まで弾いていた人にないパワーで鍵盤を叩いたので、中のフェルトやダンパーからホコリが舞い出てきたものと推察。なぜって、他の人にも見えていたとなると目の錯覚でもなく、やはり叩きまくりになると出現していたし。だって他にピアノの中から立ち上る白い煙って・・演出でスモークを焚いているわきゃないしね。
すばらしく白熱したDanny Boy、田中さんがテーマの最後の部分を弾いて(もうちょっとクリアに音程が聞こえると良かった)、ほおーっとため息をつくような小さなちいさな音でエンディング。客席中がかたずをのんで曲のゆくえを見守っている。これほど一曲の中で、ダイナミズムをつけ、音のバランスのコントロールをつけることができるバンドは他に見たことも聴いたこともない。

はあー、ほおー。会場は異様な雰囲気。興奮と静けさの入り交じった、曲と曲の間のブレイク。初めて・もしくは昔森山さんを聴いたことがあるけど久しぶりに聴いた・という人が9割くらいじゃないかなと思う関内大ホール。後ろを振り返っては見なかったが、だんだん人は増えていたらしい。この夜、Firstに再度聴きに行ったときに井上淑彦さんが「後ろの方で立ってしばらく聴いていたけれど、ほとんど満席で、立ち見も出ていた」とのこと。井上さんが聴いていてくださったこともウレシイ。

拍手の中、望月さんと音川さんが戻ってくる。楽しそうに体をゆすって両手を交互に上げ下げしながら体を揺らして、二人が位置に着くのを待っている森山さん。位置について、よーいどんじゃないけど、始まったのはFree People.

向こうでNorikoさんがイスから飛び上がって大喜びしている。イヤアーと森山さん、田中さんソロのバックで掛け声を。この人は自分で言うとおり、顔の割に声がかわいい。

どうもドラムの音響が最初と違ってきた気がする。うーむ、私は素人なのでよく分からないけれど、タムのマイクが一つはずれていて、フロアタムのマイクが一つ沈んでいるような。きっとスティックで叩いてしまって、飛んだり沈んだりしているんだろう、以前ちょくちょくあったハイハットの裏返しとかならステージに(さっきもらったパスを見せて)すっとんでいくのだが、これは直すべきものか?セッティング当初と違っているものか?演奏そっちのけで考えて、ステージ最初に撮ったデジカメ画像と比較するとやはりフロアタムのマイクの位置が違っている。うーっっっむ。どうしよう・・困ったらきっと、森山さんご自身で直されるよね、などと考えていると演奏に集中できない・気がついたらFree Peopleが終わってしまっていた。大拍手。ホールをゆるがすような拍手になってきた。

「ありがとうございます。僕らのグループに、頼りになるテナーサックスがいました。横浜の、井上淑彦なんですけれど。彼も今、今日、昼間別の場所で、演奏していました。残念ながら聴きに行くことはできなかったんですけれど、彼がこのグループを去るときに書いてくれた曲をワンコーラスだけ演奏したいと思います。Gratitude,感謝という曲です。」

田中さんの演奏から始まる。テーマから、ここまではいつもの・・・時間が押しているのでわざわざワンコーラスと言ったのだろうけど、いつものコーラスやったって1分半しか違わないよ!田中さんが弾いているとき、音川さんに向かって森山さんが連絡事項・・・喋りかけたい様子。音川さんが私の方を見てくれれば指差し確認で即連絡できるのだけれど、このでかいステージではね。また音川さんは田中さんの音を目をつぶって真剣に聴いている。あああ、どうなっちゃうんだろう。一瞬テーマが終わったときに田中さんが終わりのテーマに近い和音を入れたが望月さんがベースラインでひっぱり、即田中さんがソロを弾きだして続いた。音川さんが入ってきたけれど森山さんも爆発不足だったりして、あああああああああああ、燃焼不足。もったいない。せっかくやったのに・・・。後で聞き直すとそれなりだし、まとまっているから初めて聴いた方には何の疑問もないのだろうけれど、不安で胸がバクバク、どうしようどうなっちゃうのと思った。もう1分半延びたところで、何の支障があっただろうか。じっくり聴かせたかったなあ、残念。でも拍手拍手。

「井上淑彦よりも前から、一緒に長く演奏してもらっていたのはピアノの板橋文夫でした。彼は一緒にやるときから、私なんかよりもずっとずば抜けた才能を持っていて、名前は森山威男カルテットだったんですけれど、でも実際の音楽や実力は板橋文夫カルテットだったんです。そして、彼も、僕と別れましたけれど、実際その通り分かれてからの彼の方がずっと生き生きとして演奏しているんじゃないでしょうか、そして今日もどこかで演ります、あすも横浜のどこかで演ります。いっぺんは、聴かせてもらいに行かせてもらおうかなと思っています。最後に、板橋文夫が書いてくれた曲を二曲演奏したいと思います。サンライズ、そしてグッドバイです。

ああ、感激のスピーチ。病床にいらっしゃった時に、板橋さんについて語ってくださったあの口調と同じ。板橋ファンは数多く知っているが、森山さんより熱く板橋さんを語る人には出会ったことがない・・と思うまもなくズダン!とサンライズが。森山さんはともかく(どうせ忘れていらっしゃる)、いろんな、いろーんなメンバーでサンライズを演奏した望月さんに、それぞれのご感想を伺ってみたいものですが、彼は口が堅くて、余分なことはおしゃべりにならないのですねえ。音川さんの伸びやかなソロ。森山さんの奇声が飛ぶ。おや、maroさんと森山さんの目が合ったか、maroさんは手を振ってめちゃんこ嬉しそう。田中さんソロのサビでズダン!とブレイクし、望月田中デュオになった。ピュアな音が聞こえてきてうれしいよお。望月さんのベースラインがぐいぐいという感じで前面に出てくる。およ?音川さんと森山さんがそろってバックのリフを入れる。そのまま森山さん復活、スピーディーに叩きまくる。森山ソロ。飛び散る汗、砕け飛ぶスティック。化け物だ、怪物だ、人間業じゃない!テーマに戻る、拍手と歓声。「ありがとうございました。」大拍手。

「山下トリオを辞めて、私がまだ少し有名だった頃、(笑い)隣のエアジンにも何度か出させてもらいました。それ以来横浜に来るのは初めてですけれど、すばらしい場所でできたこと、本当に嬉しく思っています。田舎への、いい土産話ができました。」笑い。「今から一年間田舎で静かに過ごしたいと思います。ありがとうございました。」

グッドバイ。イントロの静けさ、美しさったらない。テーマも、別れの寂しさを思わせる、ピュアな音色。サビでみんなが入ってくるがテンポもぴったり。音川さんの音色が胸に染みこむ。ピアノソロ、切ない。終わっちゃうのね・・・。あああ。

拍手が鳴りやまず、メンバー再登場。もう時間を延長しているから(やる曲がないと森山さんはおっしゃいそう)アンコールはないな。舞台で頭を下げて、「ありがとうございましたー」と退場。なんかお芝居のアンコールみたいでかっこいい。拍手と共に、会場内はため息。「すごいバンドだねー」との声が聞こえてきた。

スタッフカードを胸に、舞台の下手に上がるとドラムが山積みに。撤収にかかる。ああしまった、スーツじゃなくてジーパンかなんかでくればよかった。スカート姿でドラムを片づけているのは何か異様。最後、シンバルをしまう前に坂田さんが登場してしまった。ステージで唄を絶叫しておられるのを横目で見つつ、道具箱を楽屋へ運ぶ。打ち上げ後、森山さんをエアジン板橋文夫セッションにお連れしたかったのだが、満席で入れず残念であった。

ああハッピーハッピー。横浜ジャズプロムナードの間に、3人の方から「森山さんのホームページを作ってる人ですよね」と声をかけられた。「どうして判ったんですか?」とその中の一人にお聞きしたら「いえ何となく」。「追っかけで有名」というのは何だかなあー、と思っていたのだけれど・・いえー、何も生産していないのに有名になるのはねえ、寄生虫みたいで・・・あ、イヤだ虫は嫌い。先日横浜のパンパシフィックに泊まったとき向かいのインターコンチネンタルに巨大バッタのオブジェが貼り付いていて、部屋を変えてもらって得をしたのでした。・・・ちょっと脱線。でもここまで来たら徹底しようじゃないのよ、追っかけで有名で何が悪いと腹が決まった(今さら?って声が・・あ、一番大っきいのはうちの家族だな)。