ピットイン一日目。昨夜は高田馬場で廣木光一さんと田中さんのデュオを聴いていた私。わーい連夜で田中さんが聴ける。
入場は4番目。一番に入った人たちが数が多く、心配したがなんとか最前列を確保、ピアノに一番近い席。わくわくしながら開演を待つ。


最近オープニングでおなじみマーチング7th。田中ソロ、飛ばす飛ばす。苦しそうな顔で音川さんを見てソロのチェンジの合図。音川ソロで4ビートへ。吹きながらマイク位置を調整しようとしたらマイクがスタンドから落ちてしまった。思わず立ち上がりそうになってしまった私。望月ソロへ。森山さんの新調スネアが爆音をたてている。すごい気迫が伝わってくる、ちょっと怖い顔。バスドラムもベースもよく響いている。私の右脇にスピーカーがあって、それがまたよく鳴っているのだな。後方の観客にきこえるようになっているのだが、自分の後ろで音が聞こえるというのも不思議な感じがする。ドラムソロ、スネアだけでもすごい音とテク。ソロ終わって歓声が上がる。あれ、なぜか録音のMDが止まっている。昨日はちゃんと採れたのに。マイクの電池がないのかな、おかしいなあ・・。

息つく間もなく始まった二曲めはSun、be motionless.音川ソロ迫力で盛り上がる。うわーっと叫びそうになってしまった。田中ソロ、森山さんからかけ声が飛ぶ。バスドラ連打であおるあおる。浮遊感とドライブ感、望月さんが盛り上げるのなんの。森山ソロでテーマに戻り曲が終了。森山さんMC、メンバー紹介。「えー、信正見参でございます。何でこういうタイトルにしたかというと、信正っていうのがなんかこういうイメージを抱かせるんですね。顔を見るとそういう感じはしないんですけれど。この前NHKで収録があったとき、DJの方はこのグループで唯一ビジュアル系の方だ、なんて本番が始まる前に言ってましたから。ベースの望月はそれじゃ俺たちは何系だ、なんて(笑い)言ってましたけど。あまり何も言わないほうがいいんじゃないか、なんて。今日はそれ系で。最初の曲、二曲目は田中信正が作りました曲で、それぞれMarching7th、Sun,be motionlessといいます。訳しても余り意味はないんですが(笑い)。次の曲は前任者のサックスの井上が作ってくれた曲で、Gratitude。」田中さん没頭して弾いている(猫背のため頭が完全にうまってしまって見えない)。ああ美しい曲。いいなあー。ぼーっとしてしまう。田中ソロから音川ソロへ。すばらしいー。テーマに戻って森山さんのブラシが炸裂。拍手!

スティックでカウントを出し、Sound River。田中ソロ、森山さんとのバトル。田中さんもパワーで押していく感じ。音もピロピロという感じではなくガシャガシャ系の音でねばる。サックスソロに。ドラムがからむ、だーっすごい!!短いドラムソロをはさんで終了。毎回毎回、何度聴いていても感動するなあ。あー、放心状態。ここで休憩。


休み時間外にでたら、変な外人に「ここやすーみ(休み)?」と聞かれる。ピットインの向かいはハードゲイのクラブ。俗にいうおかまバーなどという生やさしいものではない。何しろ店の入り口には「ゲイに理解のない方の入場をお断りします」と書いてある。以前ピットインのドアを開けたらむくつけき大男の濃厚キスシーンが目の前で展開されていてのけぞったことが。「知らない」と答えたのだが、しばらくして階段を上がっていったらぺたんと座っていて、また「そこやすーみ?」知らんっちゅうの。「やすーみ?やすーみ・・・」と頭を抱えている。よっぽど大事な待ち合わせでもあったのだろうか。


2nd setはアフロリズムのFreepeopleから。このアフロリズムのシンバルの響きが大好き。ピアノソロ、4ビートのサックスソロと続く。森山さんバックで叩きまくってあおりまくり。ドラムソロ、タカタドンとテーマに入る。ここでメンバー紹介。森山さんが何も言わなくても、客席からはくすくすと笑いがもれる。皆森山さんのしゃべりを期待して待っている。

昔はこんなに息切れをしただろうか、と思います。年をとった、ということでしょうか。最近は横から見ると森首相のようだと言われます」と横を向いてみせる。皆大受け。「皆さんのほうが最近わきまえてくださっていて、年の話をすると、いまさら外見を気にしなくてもいいと、こっちが何も言う前から慰めてくださいます。うちの娘が生まれたときのようで、ご近所のおばちゃんが、んまあー、お父さんによく似てらっしゃること、といったらもう一人のおばちゃんが大丈夫よ、そのうちお母さんにも似るから、(笑い)私たち夫婦は何にも言ってないんですけど。(中略)

楽しいときもあれば、苦しいときもありました。田舎の村中の人から将来を嘱望され、天才だとおだてられてきました。何しろ山梨県で芸大に受かったなんていうので地元の新聞や天気予報の後にテレビなんかにも出たんですから。もう怖いものなしで、入学の面接のときにも面接官に「どうして芸大を志望したんだ」と聞かれ、「有名だから」「受かると思うか」「思います」「なぜだ」「僕を採らないと芸大が損するから」「どうして損するのだ」「僕は将来有名になるから」が、しょせんは井の中の蛙、何も知らない者が芸大なんていうところに入ってしまって、周りがショコスタービッチだラフマニノフだと言っているのをえへらえへらと聞いていましたが、だんだん音楽科の方にいくのがいやになってきて美術科の方へ行ってモデルさんと話をしてました。

そんな風ですからいじめられまして(皆冗談だろうというような笑い)、教授連中なんか、たばこの吸いがらが落ちていれば「森山君拾いなさい」ですし、どこかへ行ったときなんか他の学生には椅子を取ってきて勧めるのに、自分には椅子がなくなってしまったから取ってこいという始末。一から十までそんな風でしたので退学届を出しましたが、フルートの吉田まさお先生(すみません、無知でお名前の漢字を存じません)に「せっかく入ったんだから出たって何も悪いことはないじゃないか」とおっしゃってくださって、卒業することができました。晴れては泣き、降っては泣き、という日々に田舎の道を歩いていたとき、聞こえてきたのがこの歌です。アンディ・ウィリアムスだったでしょうか、なんだかもの寂しく始まるのですがタ・ラ・ラ・ラーというところでぱあーっと明るく曲が展開する所が好きで希望が湧いてくるような。長い前置きでしたが(笑)山下洋輔や本田竹廣にも弾かせたい!(大拍手と歓声)ダニーボーイです。

田中さんちょっととまどった顔をしたがいつものようにサックスのソロから始まる。テーマが終わったら森山田中のデュオがどしゃめしゃ。ブレイク!またジャブからストレート、お互いの出方をうかがいながらガンガンガンガン打ち合う。うーんすごいよお。テーマの最後の部分ですっと柔らかく、静かにピアノが収束させる。あれ、この打ち合いのせいで田中さんの手につけていた水晶珠のブレスレットが全部床に飛び散ってきらきらしている。買ったばかりじゃなかったかしら。

ふうー。と息をつく暇もなくサンライズが始まる。音川さんのソロからスタート。田中さんのソロに入ってすぐ森山さんがすっと引く。望月・田中デュオ、珍しいー。久しぶりに聴くなあー。けっこうこういうの、スキ。グズラさん、ピットインのロゴマークの下、ライトが当たってかっこいい。ああ、いい音。

ありがとうございましたー」とメンバー紹介。アンコールで。「やる曲はもうご存じ。いまさら恥ずかしくて言えないんですけど。明日はやりますよ、新しい曲。今日が聴き納めです」客席どよめく。ハッシャバイが始まる。田中、音川、望月ソロ。ドラムソロは・・・なし。拍手が鳴りやまない。スティックで森山さんが田中さんを指し示す。グッドバイが。サビから入る音川さん、この吹き方が去年の年末ラブリーから変わったのだけれど私と音川さんしか知らないもんね、なんて、へへへ。あー、美しい、陶然となってしまう。あー、幸せ。くわあーーーー。

ピットイン二日目。 始まる前、場内が静かになって始まるかな思ったらしーんとしたまま時間が経過。控え室から田中さんの笑い声が聞こえてくる。マーチング7th

メンバー紹介、「さっきスケジュール表を見たら信正見参CD発売記念と書いてあったので、今日はそのつもりでやろうと思います。昨日はまるでそのつもりはなかったのですが。そんなこと言って同じ曲をやるだけなんですけど。最初の曲はマーチング7th。七度目の行進という曲です。7度目の正直、なんて言葉があったでしょうか。そういうつもりで作ったのかどうか分かりませんが、やるとこうなるという曲です。次の曲は井上淑彦が作った曲で、Gratitude、感謝という曲です。」

おや曲順が昨日と違うじゃない。さてはこの曲の後にアップテンポの曲をもってきて昨日よりも一曲少なく1st setを終わらせる気であろう。いつものとおりに進んでいったかと思うと終わりのテーマの途中でドラムソロに。おやおや。ブラシのソロとは思えないすごい迫力。あ、ハイハットが裏返っている(裏返るというと普通二拍四拍で踏むのを間違えて一拍三拍で踏んでしまう、という意味もあるがここではハイハットシンバルの上の側がおちょこになるという意味)。最近はなかったのに・・・昔のハイハットを使っているのだな。以前はそうなるとラブリーあたりではドラムの所までいって直していたのだが、ピットインではちょっと・・・それに目の前にテーブルとスピーカーがあって身動きがとれない。ま、曲も終わりに近いし何とかもつであろうとハラハラしながら眺めている。曲が終わって森山さん、ハイハットをひっくりかえしながら一言、「ピアノはいいなあ、裏返らなくて」皮肉?じゃないよね。

Sun、be motionlessが始まる。森山さんの腕がふわっと舞い上がるように、しなやかに動くのに見ほれてしまう。音川さんソロ、実に森山さん楽しそうに叩いている。今度は田中さんソロ。ソロが終わった音川さん、大きく息をしながらリズムをとって田中さんのソロを聴いている。会場内でいちばんノリノリでソロを聴いているのは音川さんかも。

休憩にはいって、店の後ろ側で膝を抱えてたばこを吸っている田中さんにむかって音川さんが二言三言。「えー、やだーやだー」と騒ぐ田中さん。何だ何だ。きっと後半のことだろうけれど。


ステージに田中さんだけ登場。おやピアノソロだ。亜麻色の髪の乙女、美しいピアノバラード。場内しーんとして聞き入っている。弾き終わってもみなしーんとして静まり返っている。そこへ拍手をしながら望月さん登場。皆つられて拍手。本当は田中さんのソロが終わる前に登場する予定だったらしいのですが。ベースソロの始まり、すごい迫力。かなりアップテンポでゴリゴリ続く。かっこいいー、ピアノとデュオが始まるのかと思ったら森山さん登場。森山望月のデュオ。このキーとテンポはSound Riverだろうか、変則的なスタートだがなかなか良い。昨日とは構成がぐっと変わってよけい緊張感が増している。テーマから田中さんのソロへ、バスドラがバシバシ決まり、スネアからタイトなリズムが叩き出される。強力なリズムに田中がのり音川がはじけ、望月が強力なドライブ感を紡ぎだす。すごいすごい。ドラムソロもガンガン。ひょえー。


メンバー紹介。「昨日は何か言ったから今日はなにもいわずにやります」とほとんどMCなしでDanny Boyがスタート。あまり好きな曲ではなかったのだが、最近は聴き慣れてきて、気がつくと口ずさんでいたりするから不思議。頭の中にあったこの曲のイメージがまったく森山バージョンに置き変わっているからだろう。マレットからブラシに持ち替え、テーマが終わったところから田中とデュオ。バシっとブレイクが決まる。スティックに持ち替え、デュオ続く。しかしまったく原曲の形をとどめていないなあー。だはー。すげー。ギャンギャンに終わりのテーマまで二人で乱闘して、最後のほんの数小節だけ、ピアノは美しく、優雅にそっと終わる。よく手が震えないもんだ(震えてるかも)。こんなにボリュームのコントロールを絶妙にやって対比をつけられるっていうのはスーパーテクニックというほかないね。

ドラムのイントロからアフロのFree Peopleが始まる。田中さんソロの途中で森山さんを見て4ビートに変わる。音川ソロへ。盛り上がっているところで途中望月さんが抜け、トリオに。今日は今までにない工夫や構成が凝らされていてまたおもしろい。ドラムソロの最中に、またハイハットがひっくり返ってしまった。あー、どうしよう。望月さんが音川さんに声をかけ、音川さんが一生懸命でハイハットを元に戻そうとしているのだけれどなかなか戻らない。どうやってやるの?と望月さんに助けを求めるが、望月さんはゼスチャーで頭を使ってひっくり返せと冗談。酒席での望月さんのジョークはいつもセンスといい、タイミングといい最高なのだがここ、ステージでもやるか!思わず皆爆笑。やっとひっくり返ったシンバルを戻すが、ペダルを踏んだ状態でなかったので鳴らない。また望月さんが指示をだして調整。ハラハラし通しであったが何とか元通りになった。あ、写真を撮ればよかったと後になって思ったがその時はそれどころじゃなかった。はあー。会場のみんなもドラムソロを見るよりも音川さんに注目していたに違いない。


終わって拍手が鳴りやまない。「さて、いかがでしたでしょうか。田中もいやだいやだと言っていましたがやらせてしまえばその気になるもんで、そのうちもっとやらせろと言い出すかも知れません。今日は北海道から、九州からお客さんが聴きに来てくれました。このメンバーで来月九州を旅するんですけれども、どうなるんでしょうか。というのも、九州にはあまりいい思い出がないんです。山下洋輔のトリオのころ九州中ついて歩いてきた変なおっかけがいましたが、これが後のタモリになりました。比較的最近行ったときは公民館みたいなホールでやったんですが、1mくらいの高いところにステージがあったんです。聴きに来た人たちがけっこう盛り上がっていて、浮かれているんですが、そのうちバシャバシャ写真を撮りだして、おかしいなあ、おれたちそんなに有名じゃないのになあなんて思っていたら何のことはない、私たちをバックに「ピース」なんかしながら記念撮影をしていたんです。そのうちクラッカーなんかがパーンパーンなんて鳴り出したりして、えらい目にあいました。まあ、来月14日から5日間九州を回ります。東京と名古屋から数人行くことになっていますが(メンバーのことらしい)ご一緒に行きたいというご希望の方は私に個人的に申し出て下さい。今日はCD発売記念ということですので、入場された方はもれなく1枚ずつ買ってお帰りになるという仕組みになっています。サインなら3つでも4つでも空いているところにいくらでもしますのでご自由にお買い求めください。ありがとうございました。」

皆拍手。帰ろうとした音川、田中を呼び止めて、「えい!」とサンライズが始まる。音川ソロ、ドラムが時々ブレイク。田中ソロ。森山ソロ、少々おちゃらけがはいるが十分堪能させていただきました。最後はグッドバイ。しーんとした中に田中さんのピアノが美しく会場に響き、皆を覆っていく。向かいのゲイクラブの音楽が少々気になるが聞こえないことにしておこう。マレット、ブラシと森山さん持ち替えが忙しい。あー、終わっちゃう・・・・二日とも聴いているのに終わってしまうのがなんだか寂しいような、なごり惜しさが。

終わって、拍手とともに全員退場。あー終わっちゃったー。しかしアンコールを要求する拍手が鳴りやまない。それでももう曲はやらないだろう。森山さん出てきて挨拶。「このバンドで最後を飾れるような気がします(一瞬ぎょっとしたが、今までの中で最高のバンドで、このままずっとやっていきたいという意味なのだろうと解釈)。このバンドでの演奏が終わってしまうと、また次のライブが待ちきれない気持ちです。次は夏ごろにピットインで演奏したいと思っていますのでまた皆さんお越しください。今日はどうもありがとうございました。

ああー、幸せだわ。さて次は、九州だ。

打ち上げの席で、小川もこさんと森山さん