午後4時から整理券を配るという、3時じゃ遅いだろうし・・・と、午後二時過ぎ、横浜から京急に乗り換え、日ノ出町駅で降りる。周りはなんだかあんまり気持ちに余裕のない、せかせかした感じの(ちょっと怖いめ?)のおじさん多し。みんな一斉に同じ方向に動く・・・あ、そういえばお馬さんのチケットを売るところがあるんだ。そういえばみんな、手に予想紙を持ってる。な〜るほど。

2時半過ぎにドルフィーの階段に着いたら、もう上の方から行列ができている。なんてこったぁ。ここで座って待つしかない、と昨日のレポート書きを始める。雨。だんだん行列は長くなる。私は屋根があるところだからいいけれど、外に並んでいる人たちは大変だろうな。どうも、出入りしているヒトの話を聞くと外の方は、かなり並んでいるらしい。座るところもないし、傘を差してみんな待っているんだなぁ・・・後で聞いたら、先頭の人(彼はラブリーやアーラのチケットを取るためだけに東京から名古屋まで来かねない勢いの熱心なファン)は朝の10時から並んでいたとか!そりゃ、最前列で聴く資格がおありですわ。脱帽。

3時半過ぎ、板橋さんのマネージャーさん登場。「え〜、なに〜、並んでるの?」4時ちょっと前、マスター登場。「あれあれあれ」とびっくりなさっている。今回みたいな整理券システムは初めてみたいで、こんなにたくさん客が並ぶとは思っていらっしゃらなかった、とのこと、「ちょっと待っててね〜」。森山さん4時に登場。4時15分頃から入場チケットとの引き替えが始まる。なんと、11番、がっくし。店内の椅子をカウントすると、どうみても最前列は確保できない。その上、椅子に予約席の名前まで貼ってあるし。良い席で聞けるといいけど・・・この席取りは、再入場の時に決まるのだな・・・その後ドラムのセッティングをお手伝い。いつもしている、バラシより組み立ての方が数倍難しい。シンバルスタンド、同じように見えても使う場所が違うし、シンバルそのものがどれをどう置いたらいいか・・・。注意力観察力記憶力不足の人間にはなかなか覚えられないのである。

セッティングが終わって、外へ出る。雨足強し。ホテルにチェックインしようと歩き出すが、傘なしはちょっと無理そう。近くの洋品店で折り畳み傘購入。そうか〜、このあたり、男性の服とか靴とか売っているお店が多いし、床屋さんとか、パチンコ屋さんとか、なんだか中高年の男性向きの街だな、と思っていたら今日はお客さんがいっぱい、店で買い物をしている雰囲気で勝ったか負けたかよくわかる。150円のビニール傘だけ買って、そそくさと店を後にするヒト、かごいっぱいにシャツとかパンツとかをにこにこしながら買い物をしているヒト。なるほどなるほど、と納得しながらホテルへチェックイン。アケタレポートを書き上げる。まだ写真を貼り付け、まで行かず。

6時前にドルフィーに戻る。店の入り口には、KaoruちゃんやらKurikoちゃんがうっとりした顔で座っている・・・リハのサウンドが良く聞こえる。Kaoruちゃんと考えていたのだけれど、このカルテット、って演奏ありそうでなさそう。板橋さんが森山バンドにいた1981年年末までと、1990年に森山さんが復活した時は井上さんの入ったカルテット(ライブ・アット・ラブリーのCDが出た頃)だったし、1994年頃のドイツ遠征に行ったころは林さんが入っていたけれど井上さんも入ったクインテットで、おまけに望月さんはご病気で入院中、ベースが吉野さんに替わっていたし、井上さんがしばらく休業してカルテットになった時はもうピアノが田中さんだったような・・・う〜ん、微妙にメンバーが交錯している。このトリオは去年長野で演奏しているけどね!

リハが終わって6時過ぎに入場。入った時にはもう最前列も二列目もほとんど埋まってしまった状態、カウンターに陣取ることにした。ピアノの真後ろ、やった〜、板橋さんのかぶりつき。なつかしい、このポジション。店は徐々に人が入り、あっという間に満席になってしまった。今日は大テーブル以外のテーブルはなし、椅子が並んで昨日のアケタ状態。「(アケタの椅子に比べて)背もたれがある分助かる」と言っている人もいる。7時になるまえ、トイレに行こうと思って振り向いたらもうぎっちり、「ごめんなさいごめんなさい」と人をかき分けつつ進む。

7時過ぎ、メンバー登場。板橋さんマイクを握って「どうも今晩は、お待たせしましたぁ、今日の企画構成、ワンマンでやらせてもらいます板橋ですよろしくお願いしますぅ!」拍手。「メンバー紹介します、ベース、えー望月英明。アルトサックス林栄一。え〜、ドラムス小山あわゎゎゎゎゎ」爆笑!!「もっりやまタケオ〜」大拍手。「ピアノ板橋ですよろしくお願いします」森山さんもスティックを打ち合わせて拍手。「早速一曲目は僕の曲です、ナイロビの夜・・ドルフィーの夜にかけます、よろしくぅ」

アフロっぽいというか、アフリカンリズム?なんというのかな〜?手拍子を観客に要請する板橋さん。テーマが始まる、ちょっとコミカルな感じの、テンポの良い楽しい曲。林さんのソロから。わ〜、板橋さんのかぶりつきなんて、本当に何年ぶりかなぁ。うれしい。ピアノの椅子がどんどん後ろに下がってくる。板橋さんも大きく体を揺らしてバッキング、うへ、最前列の人は板さんに足を踏まれてるわ。避けるのが大変そう。ノリノリのソロ。ピアノソロへ。う〜ん、板橋さんのサウンドだわ。心地いいのと、ワクワク感と。熱い熱いソロ、板橋さんのTシャツがだんだん汗で濡れていく。ドラムソロ。テンポとリズムを崩さず、タムを多用してアフリカンリズムっぽい雰囲気を作り出す。う〜ん、勢いのあるソロ、力強いぞ。テーマに戻り、最後ドシャガシ!で終わる。森山さん間髪を入れず「キェ〜 !」と奇声。拍手。

「続けてアフリカシリーズ、「ポレポレ」、のんびり行っきましょう〜」ちょっとゆったりめの曲。林さんソロ、ウキョキョキョ〜と吹く所、板橋さんも高音でカリカリ〜、森山さんもドガバシャ!とつける、ピアノソロ、林さんリードを変える。板橋さん3連符はじけまくり。お尻が椅子から落ちそうだ。私の位置でも後ろ頭突き、肘打ちをくらいそう。森山さんの知らない曲だろうけれど、違和感なくスムーズに叩けるように考えた選曲だね、さすが板橋さん。前日に森山さんが「新曲って言っても、板橋は俺のことをよく知っているから難しい曲は選ばないはず」とおっしゃっていたけど、本当だ。

カデンツァーから、ん〜、バラードかな。Over the Rainbow だ、なつかしいよ。ん〜、板橋さんのバラードだ・・・う、涙が出そう。Kaoruちゃんとも言っていたのだけれど、本当にこのあたりは「青春そのもの」だもの。私はKaoruちゃんより一時代前なんだけど・・・。板橋さんのサウンドを追っかけて、バンドのメンバーとボロ車を飛ばして(金沢からいける範囲ではなかなかライブがなかったから)京都までライブを聴きにいって、みんなでホコリまみれの安宿に泊まったこと。真夏、冷房もない締め切った部室で汗だらだらになりながらひたすら板橋さんのソロを聞き返して採譜したこと。金沢の大ホールのグランドピアノでワタラセを弾いて、黒檀の黒鍵をコブシでグリッサンドして血まみれになったこと。・・・走馬燈のようにいろいろなシーンが頭の中を駆けめぐる。板橋さんのソロを聴いていたら、涙が止まらなくなってしまった。板橋さんが作った曲だけではなく、彼から聞こえてくるサウンドには、「うた」があるから。「林栄一〜」拍手。

森山さんが叩き始める、アフロリズムだ、このテンポは、エクスチェンジかな?あ、そうだ!う〜ん、林さんの吹き方がちょっと違うぞ。なんだか蛇遣いの笛みたいで迫力不足のテーマ、もうちょっと歯切れ良く吹いて欲しい・・・。板さんと森山さんの気迫がすごいのに力が抜けちゃう。お〜、板さんのグリッサンド、なっつかし〜〜〜〜。お、林さん、ソロになったら迫力、さっきの分を取り返したぞ。グズラさんが高音まで使ってぐいぐいつける。目の真ん前の板橋さんから発する熱気まで直に伝わってくる。ほとんど立ったままでソロを弾いている板さん、森山さん奇声をあげる、アフロリズム炸裂、こちらも息が止まりそうだ。リズムパターンを入れる板橋さん、本当は林さんがサビから吹いて欲しいところ。森山ソロ、うぉ〜。寝不足で体調が悪いはずなのに、ドラムの前に座っちゃうと別人格だよね。Ending。「望月英明、森山威男、拍手ぅ〜!」皆大拍手。

二部。「望月ひであきぃ、森山たけおぉ、拍手ううぅぅ〜!」拍手拍手。「一曲目は僕の曲です、ワタラセェ〜」イェェェェェ〜と客席から大拍手、大歓声。思わず私も大騒ぎ。どうしよう〜、このイントロだけでもうやっぱり涙が出てくる。また、グズラさんのベースがいいんだよねぇ。曲の入り口は本当にゆったりと大きな川が流れている感じなのだけれど、だんだん洪水で増水した川になり、そのうち大海原が嵐になったようなサウンドになってきた。板さんが振り回す頭の風圧が伝わってくる。うわぉ、もう表現方法がないよ。

メガネがなくなっちゃった・・・・と探している板さん。汗を拭いて「ありがと〜う。いやぁ、いい曲ですねぇ」大爆笑、拍手、森山さんもスティックで拍手。でも本当にそうだ。日本の名曲といっても過言ではないと思う。「この曲でもう今日は終わりましょうか」ダメ!「林君とCDが出ました、デュオです、もう今日しかありません(ウソばっかり)」「林君の曲です。『*$%#`@/&^!!』」え、なんて言ったの?って客席からも。リンパがどうした、っていうように聞こえたけどなぁ。

少し早めの曲、シカケがちょっとある。でも森山さんが覚えられる程度の。何か、うん、曲もソロも林さんらし〜い感じで楽しい。ちょっとランダムな音を並べたピアノソロ、おもしろい。ドカドカの板橋森山デュオになった。うほ、よくピアノが持つなぁ〜、ピアノって頑丈なんだなぁ。すっとピアノが退く感じでドラムソロに。タイミングを失い、拍手まばら。森山ソロ、でも林さんの陰で見えないんだけど暴れまくってるのがよくわかる。アフロリズムを入れて、テーマに。サビがアフロリズムにまたなる、キンキンとシンバルが響き渡る。エンディング、うん、決まった!!拍手!「林えいいちぃ!!・・・・・・え〜、林君もみんな50過ぎて、望月君もねぇ、いろいろあって、森山さんもねぇ、舌癌とか克服して。死の淵からよみがえってきたと・・・」おおおっと驚きの声があがる。

森山さんから電話がかかってきて「舌癌」の手術の麻酔のことなど相談を受け、慌ててお見舞いに行った時のことを思いだした。その頃は、まだ森山さんはほとんどライブをなさっていなかった。確か、ライブ・アット・ラブリーを出した後だけれど、なかなか演奏する気になっていただけず、音楽の話をしようとするといつも「何を今更・・・」「もうジャズはやらない」「僕が好きなのは演歌なんだ」と二言目には・・・。それが、放射線治療で喉を焼いて、声が枯れてしまっているのに、息切れぎれでしゃべり出したのはジャズのこと、それもほとんどは板橋さんのことばかり。今までのはポーズだったんだなぁ、本当はジャズが好きだったんだなぁ、と思いながら、うんうんと頷きながら聞いていた。「板橋の才能と音楽をもっと引き出したい、いいところをもっと伸ばしたいんだ。本当に彼のいいところは、僕にはよく判る。板橋をみていると、自分を追求するあまり、自分にないものを一生懸命探している気がする。でも、板橋には、彼が持っていて人が真似できない、『心』と『うた』があるんだ。できることなら、僕は板橋のマネージャーをやりたいくらいだ」と切々と語っていた。もしかすると、もう本当に二度とスティックを持てない、かもしれなかったあの時、回りにくい舌で板橋さんのことを熱く語った森山さん、あの姿は忘れられない。

板橋さん「何かしゃべりますか?」森山さん「あ〜、そうですね、数少ない演奏機会ですから」といいつつマイクが入っていない、スイッチが入っていないのではなくてマイクが死んでる。別の、板橋さん用のMCマイクが出てくる。「そんな時間かけるほど大した話じゃないんです、マイクが出てくるといきなり恥ずかしくなってしまったりして」5/28の中津川のコンサート、9/18の可児市Alaコンサートの宣伝を。「板橋さんと山下洋輔さん、井上淑彦さんを3人ゲストに呼んで、それぞれのいい所を聞いてもらおうと思っています。これから板橋さんに相談をするんですが、最後はピアニスト3人がせっかくいるんですから、3人並べてドラマーと対決をするという・・」大拍手。「趣向でやろうかと。今のワタラセなんかやれば板橋さんが勝つに決まってますから・・・いや、それぞれどんな曲を選ぶかで最後は誰が勝つかというところが楽しみです」

「というわけで、最後は・あ、まださいごじゃなかった、僕の曲です、FOR YOU歓声が上がる。ん〜、きれいだ。なんて、「うた」があるの。優しさ、切なさ、懐かしさ、暖かさがぶゎあっとイントロで伝わって、うゎあ〜、髪の毛が逆立って来た。だれか、いとおしい人を抱きしめたくなるような・・・、あ、そうか、だから「FOR YOU」なんだ。こんな曲を板橋さんが誰かのことを思って「あなたのために」と書いたのかな。そんな曲をプレゼントされる人が羨ましい。林さんも朗々とうたう、う〜ん、いいねぇ。森山さんはマレットで叩きまくり。聴き入ってしまった・・・・拍手が鳴りやまない、「もっりやま、たっけお〜」と板橋さんが叫ぶ。拍手。

静寂。もしかして、この間(ま)は・・・皆が固唾を呑んで待つが、サンライズ?かな〜?パカン!から入るイントロ、あ、当たった!板橋さんの叩きつけるようなプレス奏法での「ダーンダーンダッーダッダッダ」も音程なんてあってないようなもの。サビで森山さんがスピーディーに叩きまくる、望月さんのサウンドも!林さんソロ吹きまくり、足の先にビリビリ響くぞ!いいぞ〜、もっとやれぇ〜!板さんのグリッサンドの手は高音域の鍵盤からはずれてそのまま最前列の名古屋の和尚さんを直撃しそうだ、椅子がどんどん後ろに来るから膝と足を使って後ろからずれるのをなんとか防ぐ。もう立ってのけぞって頭を振り回す板さん、目の前で後ろ頭突きをされそうでそのたびにのけぞる私、肘打ちまで直撃しそう。昨日はシンバルが頭に当たりそうな位置、今日はピアノの椅子が膝に当たっているというなんという至近距離!歓声、拍手、掛け声が熱気となって渦巻く空間。スティックが飛ぶ、ど迫力のドラムソロ。

拍手がやり止まない。掛け声までバンバンはいる。「やるんだよぉ、アンコール」拍手が鳴りやまない。「ちょっと休ませてよ、やるからぁ。もうみんな50越えてるんだからぁ・・・もっと長生きさせて〜!」イントネーションがキャットフードのCMの「いい子でいさせてぇ」の猫調。と水のリクエスト。板橋さんが水を飲んでいる間に林さんが「ルールラルーラ」とハッシャバイのメロディーを吹き始める、あわててピアノに戻る板さん、「ハッシャーバーイ」のところでドラムもベースもピアノも全員でつける。おお、ソロに入ったところでいきなり栄一節が炸裂する、ああ、おもしろい・・・客席大受け!ケキョケキョケキョキョキョキョ〜、キュキュキュキュ〜。ああ、板さんソロ、むちゃくちゃ弾いてるみたいなのだけど、ちゃんと唄ってるんだよ!で、んんん、後ろの方で、一人でィエイイェイと掛け声をかけている人がいる、うるさいよぉ。本当に応援したいのは判るけれど、のべつ幕なしに声を掛けるのはどうかと思うよ。板さんのソロが終わるところで「どうするの?」って顔をして林さんが森山さんを見る、森山さんはにやっと笑ってベースソロに持っていく。終わってドラムソロ、テーマに。

もう、曲は決まってますね、あ、もちろんグッドバイです。板橋さんのイントロを聴いただけで、今度は足の先からじわじわ〜っと、毛が逆立ってきた。ピアノのテーマだけでも、なんて、深い、なんて広い。サビから林さんが吹く、あ、音はずした。わざとかどうか、でもジャズだからわざとはずしたと言われればそれでおしまい、でもあんまりはずしてほしくないんだけどなぁ。あれ?ソロ、サビからもうテーマに、板橋さんのソロないのぉ?なんでぇぇぇぇぇえええ!!最後の最後でがっくり、板さんのソロ聴きたかったよぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!

でももう満足。よく、こんな演奏をしてくださいました、皆様。拍手拍手、拍手!なんだけど、もう多分ネタがないよ、というのは半分冗談にしても、さっきのハッシャバイの前に板橋さんは「アンコールで」とおっしゃっているから、これ以上のアンコールは要求したくないし、板橋さんも他のメンバーに気を遣うだろうしね。これで充分以上に完結した演奏だと思う。

拍手が鳴りやまないので、板橋さんが出てきて挨拶。でも演奏はおしまい。本当に堪能しました。

ドラムバラしの手伝いをしていたら、板橋さんに「しおのやさんがボーヤやってんのぉ?」って驚かれました。「オバサンでもボーヤって言われてます」と言ったら「ちゃんとボーヤ代もらってるぅ?」いいんです。、そうめったにやるものじゃないし、ね。