キッスが好きだった。 キッスといっても一般的に言われる接吻とは違う。 ロックバンドのKISSだ。 もちろんKISS(接吻)も好きだ。 そこにベーシストのジーン・シモンズがいる。 こ奴はステージ上で火を吹くのだ。 うーん、なんと野蛮でワイルドなんだ! カッコいい。 中学生の頃だ。 俺もすぐさまマネをすることにした。 人はマネをすることによってどんどん成長するものだと俺は決めつけている。 ウチの暖房は石油ストーブだ。 ならば灯油で試そう。 赤いタンクから器具の名前はわからないがそれでシュポシュポと灯油を吸い出す。 イヒヒヒヒ・・・なにか危険な香りがするぞ。 さて、どこで吹こうか? 外では人の目があるしなぁ。 そうだ、縁側だ! 縁側なら火事にもなるまい。 灯油を口に含む。 そしてライターを手にし、畳職人よろしくブワァーッっと霧吹いた。 瞬間、物凄い火が放たれた。 スゲェ・・・・ 俺は人間火炎放射器だ。 (ΦωΦ)フフフ…俺もジーン・シモンズと肩を並べたぞ。 と、思ったとき、ジイちゃんの植木達が目に入った。 視線を火が放たれたそこへ移すとそこにはマルコゲになった盆栽があるではないか。 マズイ!これはヒジョーにマズイ。 数ある植木の中でもジイちゃんが一番大事にしている盆栽なのだ。 どうしたものか。 今さらかわりにチューリップなど置いてもただ目立つばかりだ。 困った。 ウチのジイちゃんはヒジョーに温厚であり過去に一度も怒られたことがない。 いってみれば仏のようなジイ様だ。 もしかしたらヌケているところもあるかもしれない。 目も悪そうだ。 結果、知らないふりをし部屋に戻り平静を保つことにした。 数時間後、ジイちゃんが部屋に怒鳴り込んで来た。 「カズ!いったい何をした!」 「いや、、なにもしてないよ・・・・」 「ウソつけ!盆栽がマルコゲだ!いったい何をした!」 「いや、、ただ火を吹いただけだよ・・・・」 「なんでそんなことをする!!」 「ジーン・シモンズになりたくて・・・・」 「誰だ!そいつは!!!」 初めて怒られた。 ジイちゃん あの時はごめんなさい m(_ _)m あ、これが理由でファイアーってことじゃないからね。 back number 「 志 向 」 |