TOMさんと二人、千歳空港へ向かう。高速は横からの風が強くてちょっと怖い。メンバーと空港カウンター前で落ち合い、中標津へ。私たちに雪道を運転させるのは心配、とネムロ・ホット・ジャズ・クラブのメンバーの方がお迎えに来てくださっていた、ありがたいありがたい。運転はジャズクラブ内では「船長」と呼ばれている漁師さん。海に氷が張ると、そこから網をだしてチカという魚を捕るのが冬場のお仕事、ということだが今年は暖冬で氷が張らず、仕事があがったりだとか。つい先日漁に出ようとバイクで氷の上をそりを引いて走っていたらバイクごと海に落ちてしまったと、恐ろしいことを笑っておっしゃる。空港から根室までの約90kmのドライブ、まわりは真っ白けの大平原。湖のほとりで昼食、地元の人が小魚をまいたら鳥がいっぱい集まってきた。オジロワシもいる。氷の上に何かある、とよく見たら鹿が倒れている。ノブ君湖畔でキセルを一服。

会場に到着、セッティングとリハーサル。ほとんど昨日と同じ曲順、ただし一曲増える予定。左の写真はリハ中のノブ君。なかなかいつもは静止画像を撮るのがむずかしいのだが、リハ中なら近くに寄れるし、明るいのでうまく撮影できた。リハ終了後、ホテルで森山さんはお昼寝、望月さんはラーメンを食べに出かけた。

7時5分にブザーが鳴り、BGMが消えしーんと会場は静まりかえる。が、メンバー登場せず、再びBGMが。隣の高校生が「な〜んだ」と拍子抜けしたみたいに。会話の内容から、どうもバンドをやっているようだ。森山組を聴くのは初めてらしく、どんな反応を示すか楽しみだ。7時10分に再度ブザー。メンバー舞台の下手から登場。森山さんがカウントを出し、インプレッションズのスタート。バックはオレンジのライティング。ドラムの前に陣取っている隣の高校生、「マジ近くで見える〜」と大喜び。ノブソロ。森山さんスーツが白っぽい、上下とも白なんてやっぱり危な系だ。ノブ君が音川さんを見上げて、音川ソロへ。会場のスピーカーから出るベースの音が大きすぎる。サックスよりも大きいかも、しかも音が割れている、全然ピアノが聞こえないよ〜。音川さんの出す音は直接ベルから聞こえるけれど、難聴になりそう、う〜んPAさんに言いにいった方が良いのかな・・・あ、バカ!MDのスイッチを押すのを忘れてた。ドラムソロ、終わりのテーマ。     

隣の高校生「いいね、これ、最高だね!」と興奮している。森山さん「ありがとうございます」、とメンバー紹介。「さっき、主催してくださっている方と控室でお話ししたんですが、私が自分のバンドで最初に来させていただいてから、もう20年経つそうです。私の娘が18才ですから、娘よりも古いつきあいで、年をとったなと思いました。ジャズという音楽そのものが、若い人たちに見向きもされなくなってしまって、最近はオジサンの音楽のようになった感があります。私が若い頃は若者の音楽だったんですけれど。あと1-2年がんばってジャズをやったら、私もロックかフォークか新しい分野に(笑)挑戦していこうかと思っています。まあそういったからってこれで終わるわけじゃないんで、今日はたっぷりジャズを楽しんでいただきたいと思っています。え〜、このグループでやるようになった新しいナンバーは、コルトレーンの曲を取り上げ始めたんですが、なぜかというと私がひょんなことから巡り会いました、ニューヨークのジョージ・ガゾーンというサックス奏者がコルトレーンの一大研究家でありまして、プレイもコルトレーンと一緒にやってるんじゃないか、って思うほど豪快な音と、信じられないテクニックで吹きまくるんですけれど、彼とやるようになってからコルトレーンの音楽を少し思い返して、というより聴くようになってぜひやってみたいと思うようになりました。最初の曲はインプレッションズという曲で、皆さんもご存知だと思います。二曲目もそんなことから彼のよく取り上げている曲で、アフロブルー、という曲を演奏します」

ワルツのリズムが始まる。ノブ君の入れる音が新鮮に聞こえる。ベースのサウンドがいい感じ(音はちょっと大きすぎるが・・・)。アフロブルーの歌詞が頭の中をぐるぐる回っているわ。ソプラノソロ、音川さん髪が伸びていて毛先が少しカールしている。グズラさん黒いシャツ、音川さんもノブ君も黒ずくめの中で森山さんだけ白っぽい上下なのでよく目立っている事よ。さっきより少しバランスがよくなったかな?おお、気がつけばバックはブルーのライトになっている、曲目に合わせたか?ピアノの音が聞こえないよ〜。音川ソロからノブソロへ。ノブ君の靴下姿の右足がペダルをリズミカルに踏みつつ、左足も上下に動く、ノブ君盛り上げて苦しそうな顔。そこへ森山さんが大きな声をあげて音川さんに合図し、テーマに持ち込む。タムのロールからシンバルをバシーッと鳴らし、終了。高校生「サスガだな!」

森山さんハンカチで汗を拭き、何も言わずに音川さんを見る、In a sentimental moodのテーマ。う〜ん、本当に先ほどの激しさから一転して美しい、もの悲しいイメージに。ノブソロ、美しく隙のないメロディーから、メジャー調になったところで少しおもしろい感じのソロへ。聞き惚れてうっとりとペンを持つ手が手が止まってしまうわ。音川ソロ、聴き入っていたらあっという間に終わってしまったような・・もっと聴きたい感じがしたなあ〜。テーマに戻る、森山さんがスティックに持ち替えた。今日はカデンツァーも美しく決まる(昨日はハウリングが邪魔した)。カデンツァが終わっても、ベースもピアノも入らないんじゃないかと一瞬心配したがもちろんちゃんと終了。

森山さん無言で「パコン!」とサウンド・リバー開始の合図。アフロリズムが始まる。音川さん慌ててソプラノからテナーサックスに持ち替える。ピアノソロ、すっとアフロから4ビートに移行。あ、音響のバランスがずいぶん良くなった。それでも、みんな会場の音響が大きすぎるような感じ、もっと全体の音量を下げても充分楽しめると思うのだけれど。リハの時はもうちょっと良かったように思うのだけれど。ピアノの音が良く聞こえるようになった。ノブ君ガガガガガガガガガガッと鍵盤を叩き、森山さんもそれに応戦、すごいバトル。音川ソロの最中ノブ君一旦停止、音川さんソロ太い音でブロウして森山さんバックでドラムソロ状態。合図してノブ君にバッキングに戻らせる。目に汗が入って痛そう〜。テーマの終わりの部分のリフをピアノとドラムで入れて、ドラムソロ。タムの鳴りが借り物で今ひとつか。ソロを見ながら高校生「スゴイナー」けっこう長いぞ、ドラムソロ。スティック落としたが持ち直す早さを見て「スゲエ!」「最高だな!」と口々に。演奏終了、「すばらしい!」と上気した顔でみんな喜んでいるようだ、よしよし。

休憩。CDを販売する。場内のBGMにノブ君のCDをかけてもらう。森山さんにCDの宣伝をしてくださいね、ってお願いする。

8時過ぎ、再度メンバー登場。テンポの合図をだし、「New & Old Wonder」が始まる。地響きのようなドラム。ノブ君のグリッサンド、ゲンコ、パンチ、キックも入る攻撃、森山さんは冷静な眼で防戦。ソロの最中のノブ君をじっと音川さんが見つめる。ノブ君音川さんを見上げてソロ交代。音川ソロ、途中で音川森山デュオに、再度全員の演奏へと変化する。音川さん吹き終わるのと同時に森山さんバシーンと大きな音を立ててドラムソロに突入。汗がしたたり落ちる、スティックが飛ぶ。高校生、「このバンドオイシイな〜!」(美味いのひっかけでしょうね)終わりのテーマ、入り口がちょっと乱れた、複雑な長短のあるテーマなので昨日も今日もリハで練習をしているのだけれど、もう森山さん合わせるどころか爆走状態。イイんかしら・・・もうそのまま突っ走るしかない、って感じでテーマ、終了。

「ありがとうございます。このセットは、オリジナルを中心にやりたいと思います。最初の曲は、音川英二が新しく出しましたCDに入っている曲で、・・・なんとかという曲です(笑い)。横文字なもんで、私、日本語しかしゃべれませんもので。変わった編成なんですよね、こんどのCDは。アコーディオンが入ってるんですよね。ちょっと紹介してください、どんなCDか。ドラマーがいいっていうのは聞いたんですけれど」音川さん「ドラマーはかつて、神風ドラマーと呼ばれた方が演っておりまして」拍手。「ドラマーは森山威男大先生です」拍手。「ピアノもいいんですよ、田中信正がやってまして」ノブ君頭を下げる。「アコーディオンっていう変わった楽器が入ってるんですけれど、佐藤芳明君っていう今売り出し中の(ガレージ・シャンソンショーの名前をだすと隣の高校生あたりにはウケたかも?)おもしろいミュージシャンですけれど、彼を入れてサウンドをちょっと面白くしてみて、ベースは高瀬裕君という若手で、その5人で去年CDをだすことができました。今日持ってきていますので、よろしかったらぜひお買い求め下さい。宣伝させていただきました」拍手。森山さん「立派に宣伝しました」拍手。「田中さんもCDを今日お持ちだそうですね、どういうCDですか」ノブ君振られてあせる、「・・・ソロ・・・」森山さん「なんの変わりばえもしないソロだそうで(ひでぇ)、ドラマーが入らないと良くならないんだよね。・・こればっかり(笑)。でも田中さんのピアノは、えらいジャズ界では広く行き渡っていてね、僕もあまり月に何回も演奏しないんですが、スケジュールを合わせるのがむずかしいぐらい、いろんなバンドに引っぱりだこだと聞いております。・・・例えば誰とやっているんですか?」ノブ君また慌てて「・・・・・森山さん・・・」森山さん「もうそれで充分です」笑い。「望月さんはCDは」望月さん目だけ、天井をむいて知らん顔をする、爆笑。「というわけで何枚か入り口近くにあるそうですので、ご家庭に一枚といわず、家族で全員が一枚ずつお持ちいただくようにお勧めしたいと思います。曲名はそんなことで、ちょっとタイトルだけ教えてくれる?」音川さん「え〜、本当はNew and Old Wonder Trilogyという三部作の、三曲目をやったんですけれど、CDでは三部作で20分くらいにやってるんですけれど、最後の盛り上がる部分をとりだしてやっているんです」森山さん「ちなみにどういう意味なんですか、日本語に直すと」音川さん「新しくて古い不思議」森山さん「トシ?」音川さん「不思議とか、驚きとか」森山さん「ほぉ〜」音川さん「それをN,O,Wでナウという風に」森山さん「おお、考えているわけですね」音川さん「考えているんです」森山さん「昔の山下トリオのときと比べてだいぶ違いますね、昔はさてやるか、っていうから『さて』っていう曲にしようとか(笑)、どれやるか、っていうから『どれ』って曲にしようとか、非常に安易でしたけれど、そうじゃないんですね。次の曲は、これは板橋文夫ですね。オリジナルです。彼の田舎の栃木県にある川だそうですが、渡良瀬川というその名前をそのままつけて渡良瀬という曲なんですけれど。この曲を練習していた時も傑作なんですよ、板橋文夫、ご存知ですか?ピアニストなんですけれど、野生派ピアニストで、田中さんとは正反対の方向にいらっしゃるピアニストだと思うんですけれど。田中さんヴィジュアル系ですもんね(笑)。野武士のようなピアニストなんですけれど。『ここのところ、サビからどういう風に行くんでしょうか、音はこれでいいんでしょうか』ってその時のサックスの井上さんが聞いたら(森山さん板橋さんの真似をしながら振りまでつけて)、『そこん所さぁ、夕陽なんだよなあ、夕陽!』(笑)って、これじゃあ音楽の練習にならないんですけれど。そういう男が作りました曲です、渡良瀬です」拍手。

ああ、イントロのノブ君の和音、美しいわあ。「おいらの村は、川のそば、遠くへ行く時ゃ、船に乗る〜」と我が師丸山繁雄先生がつけた歌詞もある。渡良瀬川を見たことはないのだけれど、川の流れと木々の情景が脳裏に浮かんできた。ああ、もっとノブソロ聴きたかった。ソプラノソロに。最後伸ばした音がちょっと不協和音っぽくてすっきりしなかったが、まあいいか。

Gratitude。ノブ君の素直なイントロ。テーマ、マレットでトップシンバルが鳴るか鳴らないかの音でそっとつけ、次第に音を大きくしたり小さくしたりのダイナミズムがすばらしい、ああ、ノブソロ、う〜、きれいすぎ。あれ、音川さんソロしたっけ?テーマの終わり、ブラシで暴れまくる森山さん。ドラムって本当に多彩な音が出せる楽器だなあと思う。

森山さんがすこしおどけて構え、「Sunrise」が始まる。音川ソロ、ぞくぞくするようなフレーズ。リズムリフを入れ、大きく腕を上げてノブ君に合図、森山さんとノブ君ブレイク、ベースとテナーのデュオ。地を這うような低音と爆発するサックスの音が大きくうねりを作り出す、森山さんいつから入ろうかな〜って顔で伺っている、おや、今度はドラムとサックスのデュオになった、ドラムは高音乱れ打ち。ソロの終わり、大きく右腕を振り上げてノブ君に合図、終わりのテーマに突入。

「ありがとうございました!望月英明!音川英二!田中信正!」拍手、アンコール!との呼び声、拍手。名物ノブ君拍手。「この20年間で10回目だそうです、平均すると2年に1回、一年おきに呼んでいただいているっていう勘定になるんですけれど(間に何年仕事してなかったかお忘れのようですな)、これから、何回まで行けるんでしょう。あの、私のドラムを叩く人生もそう長くはないような気もします。情けないようですが、癌の手術をしてから、どうも呼吸器系が弱くなってしまって、毎年冬になると入院しているんですよ。今年も寒くなってそろそろ入院する時期かなと思って、12月になって病院に行ったら、案の定『肺炎で入院してください』って言われて図星だったんですけれど、そんなようなわけで冬になると調子が悪いんですが、どういうわけか、根室で呼んでくださったからでしょうか、やたら元気です」大拍手。「また、根室でお会いする日まで、岐阜の山奥でじっとしてまいります。どうもありがとうございました」拍手、歓声。「やりますよ、ハッシャバイ

音川さんが吹き始めると、会場から拍手がわき起こった。ノブソロ、音川ソロ。ああ、もう思考停止状態、どう表現しよう、ペンが止まってしまっている。あれ、グズラさんのソロ、サビまで?森山さんも一暴れという勢いはなく、素直にテーマに戻って、ちょっともの足らないかしら。

メンバー退場。アンコールの拍手、となりの高校生は「アンコールやるのかな?」と不安そう。戻ってきて、ノブ君がグッドバイをノブ君が弾き出すと、また拍手!ああ、終わっちゃうんだ・・ああ、美しい。テーマだけで盛り上がって、終わっちゃいそうな雰囲気。ノブ君「どうするのかな?」って顔をして森山さんの方を見るが、結局いつものようにノブ君のソロに。森山さん大暴れ、ああ、かっこいい〜、かっこいい〜。終了して、TOMさんは売り子、私は何だかんだと走り回る。CDは売り上げ上々、音川さんのリーダーアルバム(通称トリ)は持参してきた分は完売。高校生たちも、それぞれがCDを買ってくれた。森山さんにサインをもらって喜んでいた。かわいいな〜。音川さんは「自分の高校生の頃を見てるみたいだ」って。君たちも練習、がんばるんだよ。音川さんみたいになれるかもしれないよ?


最初の3枚は、打ち上げ。名物花咲蟹。最後は、見送りにいらしてくださった根室・ホットジャズクラブの皆様。本当にいつもお世話になります。また次回も参りますのでよろしくお願いいたしま〜す。是非名古屋での森山グループの演奏にも(宴会にもと書きそうになった)お越し下さい〜。

一日目室蘭のレポートへ 三日目札幌のレポート