九州ツアー一日目・中津市ぐるーびいー

 なあーんってこったい、またこんなせりふからはじまりますが、MDがどうしてもダメ。しかたあるまい、といいつつMDを新調。えらい出費だわい。後で気がついたが、タイマーをちゃんと合わせておくと、何月何日何時何分にこのソロをしていたというのまで再生時に判ってしまうのだなあ。おもしろい。ツアー 1日目、とありますが私の参加した一日目。福岡ニューコンボに行けなかったのが返す返すも残念。しかしこんなにくどくどとライブ観戦記を書いて、面白いと思ってくれる人が果たして何人いるのだろうか・・・考えるとくじけるのでやめ。


 中津市は大分県の一番福岡県よりの市、人口3万人の町。ぐるーびいーは外から見るとジャズ喫茶とは思えない和風の一軒家、裏はテニスコートで、横はお寺。どんな大音響でも大丈夫そう。でも森山さんのドラムでお墓の中から叩き起こされる人がいそうな気も。コートの向こうは日豊本線、最新型特急列車ソニック号が走っている。のんびりしたいいところ。森山さんのセッティングを少々お手伝い。昨年の北海道ツアーで初めてドラムを触らせていただいたのだが、だんだんセッティングの度にスタッフの一員のような顔をするのがうまくなってきた私。セッション505のスタジオでもドラムばらしはさせていただいたが、まだまだ全部しまうところまでいかない。音合わせが済んで、森山さんがなぜかピアノで少々調子っぱずれグッドバイ、歌付き。


 音川さんと田中さんとぶらぶら歩いてホテルへ向かう。ここは城下町、家並みは古いお屋敷風の落ちついたたたずまい。「なんだか時代劇のセットみたいだね」「お侍さんが出てきそう」「暴れん坊将軍がでてきたりして?」音川さんいきなり「羽田官房長官」田中さんと私「は?」音川さん「羽田孜が官房長官になったらさあ、裸ん坊長官になるんだよね」これ、実際なったらニュースアナなんか困るんじゃないだろうか。「昨夜、羽田官房長官が日米会議における・・・」 ある日の朝、起きた途端このフレーズを思いついたとのこと。


 もういきなりお笑いモードになってしまい何をみてもおかしい。商店街の手前、道端で蟹やら魚を売っていた。シャコが発泡スチロールの中でぴくぴく、脱走を試みた一匹が箱の外にタスケテーという風に片腕でぶら下がっている。駅前にヤバケイクラブというレストラン?耶馬渓という九州の地名がついているだけで、地元の人が聞いたらまったくなにがおかしいのか分からないと思うのだが、ヤバ系の人が集まってたりして。閉店したサティの駐車場は「平面駐車場」と書いてあるがどうみても自走式立体駐車場。きっとエレベーター式の駐車場でないとこちらでは立体式と言わないんだろう。後でお聞きしたらこの駐車場から車が落ちかけて宙吊りになったことがあるとか。ホテルの横にはなぜか「女性専用駐車場」、パチンコ屋の駐車場と思うが軽自動車ばかりとまっている。商店街の洋品店には2L、3L、4L、5Lのズボンを「肥満体用ズボンあります」と大きく貼り紙で売っている。わざわざ「肥満体」なんて書かなくてもいいのに・・・。3人で???げらげら笑いながら中津の街を歩いた。
 

ライブは8時前にスタート。ホームページで知り合いになったサラさんが大分からお越しくださった。これまた長身の美人で後の打ち上げで話題になったくらい。最近は田中さんのホームページや自分のホームページで知り合いになったかたとあちこちでお会いできるのでうれしい。それも初対面から趣味が合うことが分かっているから話もはずむ。サラさんは明日の大分でライブを聴くおつもりだったのだが、強引に中津まで来るようにお誘いしてしまったのだ。彼女はCDやセッション505では森山バンドを聴いたことはあってもライブは初めて、どんな反応を示されるか楽しみだ。

Marching7th。あれ、いつもよりテンポが遅い?田中さんが真正面で顔を見て弾くのは初めてかも。田中ソロから音川ソロに変わりマーチから4ビートに。森山田中が並んで距離が近く、お互いを見つつ音川さんをあおる。しまった、フラッシュが光っちゃった、メンバーの皆さんごめんなさいごめんなさいと言いつつ、いい写真が撮れた。森山ソロ迫力。観客もびっくり、お隣の男性は妙に姿勢がよく背筋がぴんと伸びているがきちんと座ったままノリノリ。


どうもありがとうございました、とメンバー紹介。何年ぶりに九州に来たんでしょうか。大きい病気もしたしいろいろなことがありましたが、よくまた来られたな、と。(拍手)感激ひとしおです。このグループになって2枚レコードをを立て続けにつくりました。1枚がtake zero,二枚目が信正見参、という田中信正を紹介するためのCDをつくったはずなんですが、どうもドラムがでしゃばっているようで、田中信正を紹介していることになっているのか、とそういった心配をしています。曲は田中信正がほとんど作りました。さっきの曲はMarching 7th,次の曲はSun,be motionless.意味は良く判らないんですが太陽よ止まれ、という曲です。


 ベースの音がよくのびている。音川ソロ、いいぞいいぞ。今日はとくにベルのどまん前に座っているので音と対決しているような気がしてきた。森山さんあおる!なんだかうれしくなってにこにこしてしまう私。田中ソロ。うわあ苦しげな表情だがイイ感じ、森山ソロ。今日はハイハットはひっくり返らないヤツだから安心して聴ける(ピットインライブ観戦記参照)。拍手!ありがとうございます。山下洋輔トリオを辞めてから何年になるのか、もう数えるのも難しいくらいになりました。自分の名前でカルテットを始めてから、ずうーっといっしょなのはベースの望月だけで、あとは板橋文夫とは長くやっていました。テナー奏者だけはいろんなひとに次から次へと変わっていったんですけれど、この音川英二の前に板橋文夫と良いコンビで演奏していたテナー奏者が井上淑彦で、すばらしい音色の持ち主、実力派の人でした。彼は作曲の能力もすばらしくて、何曲か後々までいろんな人が演奏できるような印象深い、きれいな曲を作ってくれました。このグループをを去る時に、最後に残していってくれた曲です。


Gratitude。田中ソロからのテーマ。ピアノがテーマの途中で音を切る弾きかたなのがすこし気になりましたが、静寂と美しい響きが広がる。モバイルギア(携帯ワープロ)のキーボードを打つのもはばかられるような。ちょっとピアノの調律が気になりますが。音川ソロへ。すごくアーティキュレーションの強弱が効いていてもうのぼせそう。え、いつの間にこんな風に吹くようになったのかしらん。嬉しいなあああ、もう幸せっ!あー、今日はもうレポート書くのやめたあ!ダメ?うおー、来た来た来たぞ、終わりのテーマのサビ、森山さんの暴れ太鼓!このままソロにいっちゃうかと思ったが、おとなしくなってテーマに戻る。終わって拍手。


無言でカン!とリムショットから間髪を入れず始まるFree People。田中さん頑張っております、もうちょっと幅広いソロを期待したいと思ったところで森山さんがざあああああーっとロールをいれ、4ビートに。およよよ、田中さんをぶちのめそうとしているのか、煽ろうとしているのか、森山さんすごいぞ。それに応えて田中さんもねばるねばる !音川さん太い音で参加、ソロに突入。うへ、よう吹くなあ。ソロの音に合わせて森山さん突っ込む。最高。ドラムソロになだれ込み、タムの音階を利用しているのが唄を歌っているようにきこえるのかな、強弱あわせ一本技!テーマの入り口がちょっと不揃いだったようにも思うが、全く問題なし。すごいなー、いいなー、うれしいなー。フィニッシュ!ありがとうございます、とメンバー紹介。しばらく休憩します。

二部スタート、思ったより休憩時間が短かったので(サラさんと話し込んでいたためか)、あわててMDをセットしてトイレへ走る。Sound River。トイレから出て後ろのほうで立って見ていたが今日はPAの調節がいいようで会場内どこでもけっこういいバランス。田中ソロから音川ソロへ。いいぞいいぞ!思わず立ったまま体がゆれ、ノリノリになってしまう。後ろにだれもいないので安心して暴れられる。忘れもしない1989年6月30日、森山さん復活時の初ライブ、ラブリー1日目の夜。その頃一緒に森山ドラム教室に通っていたちひろちゃん(そのうちどこかで書きますが彼女はダンナさんとの出会いは森山バンドがらみ)と2人、どれだけか待ち望んでいたライブの実現で舞い上がり、嬉しくて最前列で手足ばたばたノリノリで聴いていたら終了後ある女性に「あなたたち目障りなのよ」と言われしゅんとなり、翌日、サックスの井上さんにどうしたの?と聞かれたくらい。それから座っているときはなるべくおとなしく聴くようにしているのであった(どこが!というなかれ)。


「この曲は音川英二が作りました、これはテイク・ゼロの方に入っています。今度やる曲はダニーボーイ。どうしてこんな曲をやるのかっていわれそうですが。ドラムが好きで叩けるというだけでドラマーになってしまいましたので、そしてジャズの世界で生きていこうと思った途端山下洋輔と一緒にまったく新しい音楽をやることになってしまったのでジャズもどういうものかということをよく知らずに、4ビートもブルースも何にも知らずに一応名前だけはプロになったわけです。思い出してみると、ずうっとそう言う風に、やることなすこと行いのほうが先に立っていて、知識があとからついてくるというスタイルを取っていたような気がします。

芸大へ入ったときもそんなようなもので、何も分からずドラムが叩けるというだけでまぐれ当たりのように芸大に受かってしまって、苦労しました。クラシックを何も知らないのに芸大に入って何するんでしょうね。下駄はいてオーケストラの授業に行きましたからみんなから怒られました。で、譜面台の後ろに週刊誌を置いて読んでましてから、ろくな学生じゃありませんでした。それもこれも今から思えば反抗のあらわれだったんですね。何か自己主張をしないとやっていけなかったんです。でもそういう堅い校風でしたからジャズをやる人間なんてだれもいない。それで打ちひしがれて芸大に退学届を書いて親に何と報告しようと思って、朝起きては泣き(会場笑い)、夜寝ては泣き、という風で、本当に今思えばノイローゼだったと思います。行くところもなく、東京には居るんですが、朝からパチンコ屋へ行って玉をはじいていても入るかどうか試しているのじゃなく、頭の中はからっぽなのですけれど何か考えなきゃ、考えなきゃとせっぱつまった思いだった時にこの曲がよく流れていたんです。さっき誰かが言ってたんですが、これは男性ボーカルでアンディ・ウィリアムスじゃないかって。この間テレビで聞かれたときに「五木ひろしじゃないことだけは分かるけどなんてばかなことを言ってしまったんですが、音楽的にはそれくらい無知でした。

今までもジャズミュージシャンだって言っても山下洋輔トリオ時代にはメロディもないような曲ばかりやっていましたので、あのころはこのグループを辞めることなんてあるだろうか、辞めるとしたらきれいなメロディを口ずさめるような、そんな曲がたたけるようなドラマーになりたいな、なんて思っていたのですが。板橋文夫(場内笑い)と出会って演歌のような(場内大笑)ジャズをやることができて幸せだったんですけど、根が努力家でなくて浮草のように好きなことだけやって暮らしていると言うタイプですから板橋文夫といっしょにやっている時もグループの全部の曲数は8曲ぐらいでアンコールが何回来ても応えることができないというグループでした。で、今度このグループになってもまた同じなんですけれど。何かほっとしたいんですよね、そして「うた」が欲しいんです。自分が歌えればいいんですけれど。ドラムが歌おうとするとうわーっとドラムを叩いてしまって、ある人から「森山さんはきれいな曲をやっているのにどうしてああいう風にいつもぶち壊すんですか」(笑い)、っていわれたんですけれど、一生懸命歌おうとするとああなってしまうんです。歌わなきゃいいんですけれど。50才過ぎたので新たな挑戦としてボーカルでも始めようかな〜そんな風に考えたりします。ダニーボーイです。」


音川さんのテーマから、やはりいきなりピアノとドラムのバトルが始まる。「美しい曲」をやりたいんじゃなかったのかね、ってな感じ。でも最後にきれいに締めるところがなんともいえない。私が何度聴いてもすごいなあと思うのだが、知らない人はあっけにとられてなんだかわからんのじゃ?ぐるーびいーのマスターも音川さんに、「CDを聴いていたらサックスが出るか出るかと待っていても出てこない。どうしてあれで終わりなんだ」って聞いていたっけな。
タタン!とサンライズ始まる。
拍手が鳴りやまない。森山さん何も言わず音川さんを指し示す。ハッシャバイ。やはりおなじみの曲だけあって、歓声が客席から湧く。メンバー紹介。


誰かに聞かれてちょろっとホンネが出たんですが、長年ドラムを叩いてきて、年をとって最後の最後で自分らしいやりたいことがこのグループでできそうかな、というそんな予感がしています。そういうことを思うとたんに人はダメになっていくんじゃないか、という、寂しい気持ちがこう気分が高揚するのと反対に働くんですけれど。でも体に気をつけて、またお会いできるように頑張りたいと思います。グッドバイ。」広い音域を使ってイントロ。最後の最後なんて森山さん言わないでよ・・・美しいメロディーも相まって何だか胸がいっぱいになって、気がつくと両の目からコンタクトが浮いて流れてずれてしまいそうになった。ああああああ、期待以上にすばらしいライブだった。アンコールの拍手が始まる。


サラさん、CDを購入するも、カルチャーショックによる動揺がかくせず、サインは「明日お願いすることにします」とふらふらしながら(飲んでいるわけではない)お帰りになった。


今日の演奏はまたとってもよかった。花粉症と風邪で死にかけの状態の森山さんとは思えない。また打ち上げでは、奥様手作りのおでん(牛筋が絶品)、ミツバのサラダなどとてもおいしいお料理が出て幸せ。九州に来て太らずに帰ることが目標だったのだけど無理かも知れない。

ファンクラブの方たちは皆さん楽しい方ばかり、今まで一日のうちでこんなに笑ったことがあっただろうかと思うくらい。音川さんもジョーク連発、絶対、望月菌に感染したと思う。中津ジャズファンクラブ会長小林さんは薬剤師さん。耶馬渓(ヤバ系)薬局!とウケていたが、裏耶馬渓(裏ヤバ系)本耶馬渓(本ヤバ系)どんな薬を扱っているのかと思いませんか?

音川さんがベースを弾いてそのあとピアノで遊んで、マスターを含めてCジャムブルースを始めた。レッドガーランドのをコピーしまくった頃(もう20年くらい前の話だ)を思い出してひょいとのってしまったが、軽率なことをしてしまった・・恥ずかしい。酔っぱらいは怖い。思い出しては自己嫌悪。うーむ、自重せねば。最後はマスターのベースで音川さんと田中さんの連弾。おもしろかったっす。

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